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少しずつ
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「知らなかった…そういえば、江波 漣の顔写真ってないよな」
「ああ。あまり人前に出たくなくて…メディアに顔出しはしたことないかな。担当の人にもお願いしてある」
「そうだったのか…すごいな、蓮矢は『れんくん』で『江波 漣』なのか…」
じっと蓮矢を見つめる。
偶然というか、運命とでもいうのか…俺はずっと、そばに蓮矢を感じて生きてきたんだ。
「驚いた?」
「衝撃的すぎて頭がついていかない…」
「そうか。少しずつ、俺のことを知っていってくれると嬉しいな」
「うん」
知らないことは知っていけばいい。
そして、俺のことも知ってほしい。
もっともっと、お互いに知っていることを増やしたい。
「そういえば蓮矢は…一人暮らしなんだな」
「ああ。父さんと母さんは今も元気だよ。稔に会ったらきっと喜ぶと思う…心配してたから」
「そっか…ありがたいな」
ほっこりとしたあたたかい気持ちになっているとき、不意にピンポンとチャイムが鳴った。
「お客さん来たみたいだけど、ごめん、俺どこに居たらいい?」
「居るのはこの書斎で構わないよ。本もあるし。でも誰だろう…ちょっと待ってて」
蓮矢は俺をひと撫でしてから部屋を出ていった。
ぽつん、と取り残されて少し寂しくなる。
いや、そんな四六時中一緒に居たいとか、そんなこと言うわけじゃないけど、でも…蓮矢は助け出してくれてから、ずっと俺のそばにいてくれたから…
俺ってこんなにさびしがりやだったかな。
おもむろに江波 漣の作品を手に取る。
引き込まれる文体のミステリー。
少しずつ広げられた謎が、ゆっくりとひとつになっていく。その読みとく感じが好きだ。
集中して読んでいると、扉の外が騒がしくなる。
蓮矢の声? あと誰か聞き覚えのある…
ガチャ、と書斎の扉が開けられた。ビクッとそちらを見ると、青年が立っていた。
「あ、いたいた。こんにちは稔くん。元気ー?」
「え、あ、…誰ですか?」
「あ、そっか。あのとき見えてなかったもんな。俺だよ俺」
詐欺っぽいことを言いながら青年が近づいてくる。
「結局逃げたのに戻ってきたんだな。稔くん。俺の名前は奏太、だよ」
楠見 奏太。
俺のことを逃がそうとしていた男。
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