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幸せと優しさ
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今までの人生を振り返ると、こんなに幸せだったことは無かったかもしれない。
「…おはよう」
目を覚ますと、隣に蓮矢の顔がある。さらに抱きしめられているから、朝からドキドキしてしまう。
「おはよう、稔…」
目をゆっくりと開いた蓮矢は、ちゅ、と俺の額に口付けた。
蓮矢と会って、蓮矢にこれでもかというくらい優しく包み込まれ、俺は初めて人に「愛される」ということを知った。
「蓮矢のそばにいると安心する…」
もぞ、と身じろぎ、腕を伸ばして抱きつく。
素肌が触れあう感じが心地好い。
人の体温がこんなにもあたたかいものなんだって教えてもらった。
「…色々ありがとう、蓮矢…」
「俺は何もしてないよ。稔のそばに居ただけ」
「そんなことないよ…そばにいて、安心させてくれてる」
「稔の不安は全部取り去りたいんだ…」
優しく頭を撫でられ、幸せを噛み締める。
ぎゅう、と抱きしめ、さらに密着する。
「…稔、体調は大丈夫?」
「ん…? あ、ああ、えっと…大丈夫」
昨夜の行為を思い出して赤面する。
蓮矢に触れられるだけであんなにも乱れてしまう自分が恥ずかしい。
「無理をさせすぎた…」
「大丈夫…蓮矢優しかった、よ」
「仕事は行けそう?」
「ん…平気」
のそりと起き上がる。少しダルさは残ってるけど、動けるから大丈夫。そのあと蓮矢にあれこれと世話を焼かれながら、一緒に家を出た。
「じゃあ、また連絡して」
「うん、わかった」
「また来るから」
「俺も行く」
幸せに包まれながら、交差点で手を振って仕事に向かった。むず痒くて、嬉しくて、楽しい。
蓮矢は俺に大きな安心を与えてくれた。
蓮矢に会えて良かったと、心から思える。
「露原」
「あ…河瀬。おはよう」
職場に着くと、河瀬に呼び止められた。
そういえば…河瀬にも色々と世話になった。
「体調大丈夫か?」
「え」
そういう意図で言われたわけじゃないのに、 蓮矢と同じ事を聞かれてドキリとする。
「だ、大丈夫。最近、心配かけてるよな。ごめん」
「いや、俺はいいけどさ…無理するなよ?」
「ありがとう」
河瀬は優しい奴だと思う。
一緒に仕事をし始めた頃から、何かと助けてくれたり、反応の薄い俺に積極的に話しかけてくれたり…
感謝してもしきれない。
これからは俺も河瀬に何かを返したい。
「河瀬っていい奴だよな」
「へ?! どうした、急に」
「急にっていうか…いつも思ってた」
「そうなのか? いい奴とか言われたことないなー」
頬をかきながら河瀬が笑う。ほんのりと頬を染めていて、照れているのが分かった。
「河瀬って気が利くし、優しいし…俺はいい奴だと思うけど。周りもそう思ってるんじゃないかな」
「いや、そんなことないって! あー、でも、露原にそう言ってもらえるの嬉しいかも」
「そう…?」
「俺さ、」
河瀬が一歩進む。
「露原ともっと仲良くなりたいから」
「俺と…って、もうその時点でいい奴…」
「露原は自分のこと低く見すぎだって!…って、いうか、さ…仲良くなる第一歩として、…稔って呼んでもいい?」
「あ、うん。呼び方は何でも…」
「お、やった! じゃあ稔、稔…っと。俺のことも下の名前で呼んでいいからな!」
「秀隆?」
「おう!」
にこにこと笑顔を返され、こちらも笑顔になる。
蓮矢という大きくて優しい存在に癒されて、俺も少しは他者と距離を詰めてみようという気になれた。
秀隆とも、もっと色々話せるようになれたら嬉しい。
準備のために更衣室に入り、扉を閉める。
他にも話せる人、増やしていきたいな。
「…稔と仲良くなるためなら、どんな手を使ってでも他の奴らは潰してやるから」
この時の俺はまだ、秀隆の真意なんて…知らなかった。
第一部 終
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