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奪還
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「稔は買うもの決まった?」
「そうだな。もう大丈夫」
「そっか!」
秀隆がニコニコしながら戻ってきた。
緊張しないように、と着いてきてくれたけど…何だか申し訳ない。秀隆だって一緒に来たメンバーと回りたかっただろう。
ちら、と横目で蓮矢を見る。
今日はあまり笑っているところを見てない。
…つまらなかった、かな…
俺は気の利くようなこと言えないし、緊張して上手く喋れないし。
途端に不安が胸の内に広がった。
「れ、蓮矢は買い物終わった?」
「ああ。もう大丈夫だ」
「じゃ、じゃあ買ってくる!」
「…分かった」
早足でレジへと向かう。店内は意外と混んでいて、ぶつかりそうになりながら前へと進んでいく。
嫌な汗が背中を流れていく。心臓もバクバクと鳴っていて、喉がカラカラに乾いていく。
「来るんじゃなかった」って思われていたら、どうしよう。
レジを終え、しょんぼりとした気持ちで歩き出すと、突然ぐい、と強い力で引っ張られた。
「…っ?!」
驚いて顔を上げると、蓮矢がそこにいた。
表情は見えない。
俺の手を掴み、店の外へと俺を連れ出した。
「蓮矢…?」
「…」
「ど、どうしたんだ? ま、まだ店に秀隆と滉さんが、」
「…稔」
「な、なに…」
振り返った蓮矢は、困ったような顔をしていた。
それを見て、さらに心が苦しくなる。
そんな顔させたかったわけじゃないのに。
どうして俺は上手く振る舞えないんだろう。
「…あれ、乗ろうか」
「え…」
蓮矢の指し示す方を見ると、夕日に照らされた観覧車が目に入った。
「の、乗る…」
「ありがとう」
ぐるぐると悩みながら、蓮矢に手を引かれて観覧車に乗りこんだ。
「…」
「…」
沈黙がその場を包む。
観覧車って、こんな重苦しい空気に、なったっけ…
「…やっと」
「え?」
「やっと稔と二人きりになれた」
「あ…」
確かに秀隆と合流してからはずっと団体で動いてた。俺が頼んでしまったこと、蓮矢は怒ってるのかもしれない。
「…稔」
「な、なに」
「…ごめん」
「え…な、なんで蓮矢が謝るんだ?」
「稔を緊張させたのは俺だから」
「…っ」
優しく微笑まれ、蓮矢の優しさを嬉しく思う気持ちと、蓮矢に謝らせて申し訳ない気持ちがない交ぜになった。
「…っ、蓮矢は悪くない。俺が…」
「ありがとう。…ねぇ、稔。こっちにおいで」
向かい合わせに座っていたけど、蓮矢が自分のスペースに隙間を作ってくれて、そこを指し示された。
恐る恐る蓮矢の横に移動すると、その密着さにまたドキドキと胸が高鳴った。
「…急ぎすぎた、って自覚はあるよ。少し強引に事を進めすぎたね」
「れっ、蓮矢は、いつも優しいし、無理させられたことも、ないけど…」
「…」
そっと手を握られる。指と指を絡めるような、そんな甘い握り方。
その甘く優しい触れ方と表情に、くらくらしてしまいそうだ。
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