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俺を見て④ (城戸視点)
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「…で、何で水族館に来てたんだよ」
沈黙に耐えきれなくなったかのように、滉さんが口を開いた。昔から滉さんには迷惑をかけてばかりで申し訳ない。
「本当に、たまたまで…その、姉貴が久しぶりに帰ってきて、彼氏と行けなくなったからっつって、無理矢理俺のこと連れ出して」
「お前ねーちゃんいたのか。つか、じゃあここにいたらまずくね?」
「姉貴は彼氏から連絡きて帰ったんで…そんで、そのときたまたま河瀬先輩がいて」
「ふーん」
本当の話だ。姉貴はとっとと帰ってしまい、つまんねーから俺も帰ろうとしたら、河瀬先輩を見つけた。
「河瀬先輩に伝えたいこともあって」
「俺はない」
「…う」
ぴしゃりと言い切られ、言い澱む。
「た、大したことじゃないんすけど…」
「大したことじゃねーことで俺を呼び止めて、しかも邪魔をしたってか。ふざけんなよ」
「す、すいません」
怒りを真正面から受けて怯むが、おずおずと「それ」を差し出した。
「…」
「…」
「…」
沈黙がその場を包む。
「この前会ったときに、落としたのかな、と…」
「…」
「…ふ、」
河瀬先輩は俯き、震えているように見えた。
滉さんは口を押さえて何かを堪えてるようだ。
「潰す」
「っわ!?」
河瀬先輩にグイッと胸ぐらを引き寄せられる。
近い。色々な意味で心臓がうるさく鳴りはじめてしまった。
「秀、待て、ここ結構人が、ふ、ふは」
「滉。止めるな。こんなくだらない理由で呼び止めやがって…許さねぇ…!」
「それ」が振動で少しずれた。
この前河瀬先輩が俺をボコったときに落としたのは…
指輪、だった。
「なんつーか城戸ってさぁ、見た目のわりに真面目だよな…律儀っつーか」
「こんなもん捨てておけよ!」
「河瀬先輩のものを捨てるとか無理っす。あ、もしかしていらないから捨てたんすか…?!じゃあ持ち帰りましょうか」
「うるせぇ黙れ。返せ」
河瀬先輩が周りに目をやり、少なからず人の目を集めてしまっていることに気づいて手を離した。距離感が元に戻り、少し寂しい。
「っあー、くそ…何でこんな奴に邪魔されないといけねーんだ」
この人に認められたい。
視界にいれてほしい。
高校時代、そんなことばかり考えていた。
今、河瀬先輩の瞳には俺が映っている。
それだけで、体が歓喜でうち震える。
ねぇ、先輩。俺だけを見て。
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