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ひとつの嘘
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「…とりあえず、食べやすいもの買っておいたから」
「お、おう…ごほ、ありがと、な…」
「…あ、あと、今度はメール送る相手、間違えるなよ」
「…そうだな…」
城戸はどうやら意識が朦朧とした中でメール画面を開いたらしい。自分としては姉に送ったつもりだったと聞かされた。
「稔、もう帰るよな?」
「あ、うん。…じゃ、もう行くから」
そう言って、俺は秀隆と一緒に城戸の家を後にした。
**
「…大丈夫か?」
「え?」
秀隆が俺の顔を覗きこむ。
俺はぺた、と両手を顔に当て、困ったような顔をした秀隆を見る。
「何かさ、眉間に皺寄ってるし、城戸の家にいる間ずっと気まずそうだったからさ」
「あ、えっと…その…城戸とは、別に仲良いわけじゃないというか…気軽に家に行くような友達じゃないと、いうか」
しどろもどろに答えたら不審がられるのは分かっていたけど、城戸たちにされたことを思い出すとまだ背筋を嫌なものがかけのぼる。
平静を装うことなんてできなかった。
「ふぅん。ま、確かに城戸…くんは、稔とは毛色が違うもんな」
「…そうなんだよ…」
「でも行ってやるなんて、稔は優しいな」
「別に…そんなんじゃ…」
俺だってもう城戸に関わりたくなかったけど、「しぬ」なんて送られて放っておけるほど、俺は強心臓じゃない。ビックリして行ってしまう。今回は近くに秀隆が居てくれて良かったと思う。
「秀隆が一緒に来てくれてよかった。ありがとな」
「はは、お安いご用だ」
秀隆はなぜか上機嫌に俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。きっと頼られ慣れてるんだろうな、と思いながら歩を進め、駅に到着した。
「じゃーな、稔。また明日」
「ああ。また明日」
手を振って秀隆を見送り、時間を確認しようとして携帯を見た。
「あれ…蓮矢だ」
着歴が残っている。30分くらい前に電話をくれたようだ。時刻を見ると、いつもよりだいぶ遅い時間だった。用事が長引いたのかな。
蓮矢の番号を押し、携帯を耳に当てる。
「…」
『もしもし』
数コールの後、いつもの心地よい声が聞こえてきた。すると、ふ、と肩の力が抜けた。どうやら今までだいぶ緊張していたらしい。
『稔?』
「あ、ああ、もしもし。ごめん、電話くれたのに出られなくて」
『大丈夫だよ。俺の方こそ今日は遅くなってごめん。遅いからかけるのを迷ったんだけど…つい、かけてしまって』
「平気。寝てたわけじゃないし」
『そうか。………? まだ外?』
「え?」
『いや、何か周りが騒がしいから』
「あ、えーっと…」
駅の近くはわりと騒がしい。
周りを見渡しながら、城戸とのことが喉元まで出かかる、けど、…言えなかった。
「…コ、コンビニに、ちょっと用事があって、外に出たんだ」
『そうなのか。夜道は暗いから、気をつけるんだよ』
「うん…ありがとう」
嘘をついたことで、心がちくりと痛んだ。
でも蓮矢に無闇に心配をかけたくなかった。
ただでさえ色々な迷惑をかけてるのに、これ以上不安にさせることを伝えたくなかった。
もう城戸の家に行くことはないし、言わなくても大丈夫だ。蓮矢の声を聞けて安心したし。
でも…
伝えなかったことを、このあと盛大に後悔することになるなんて、この時の俺は全然考えていなかったんだ。
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