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違和感
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蓮矢が来てくれた日から2日。熱が下がった。その間、蓮矢は俺の家に何度も足を運んでくれたけど、会話はほとんどなかった。俺の体調を気遣ってくれたのかもしれない。
ただ、本当に最低限の会話しかなかったから、「…避けられてる?」と少しだけ感じてしまった。看病に来てくれてるのにそんなことを思うなんて……俺は最低だ。
ダルい体を引きずりながら職場に到着すると、遠目に秀隆が見えた。秀隆はメールで俺の体調を気遣ってくれて、ほんとマメでいい奴だなって思った。
声をかけようと近付く、が、秀隆は誰かと話しているようだった。職場の人じゃない。誰だ?
「…から、いいって…」
「でもな…、……、…だか…」
立ち聞きするのも悪いと思って、その場を離れようとした。その時だった。
「だから関係ねぇって言ってんだろ!」
怒鳴る声が聞こえてきて体がビクッと跳ねた。
恐る恐る覗くと、怒鳴ったのは秀隆だった。秀隆の威圧するような大きな声なんて聞いたことがなかったから驚いてしまう。
「…秀隆。関係ないなんて、悲しいこと言うなよ」
「よく言う。隆一(りゅういち)だって俺なんかに来てほしくないくせに」
「そんなことないさ。俺も、父さんたちだって本当はお前ともっと話をしたいよ」
「は、あいつらが? それこそないだろ。俺なんか存在ごと消したいはずだ」
「…。そうやっていつまで臍を曲げているつもりだ。お前もいい大人なんだから…もう少し、」
「別に俺はあいつらに好かれようなんて思ってない。俺が嫌なのは、てめぇらの体面のためだけに『家族ごっこ』しようっていう気持ち悪い思考回路だ」
「…」
「今まで放置してたんだから最後まで放っておいてくれよ。俺は関わりたくない」
「…また来るよ」
「来んな」
秀隆と話していた青年は曖昧に笑いながらその場を去っていった。
「…はー…」
秀隆は盛大なため息を吐いてその場にしゃがみこんだ。ガシガシと頭をかきながら俯いている。
「…、…」
どうしたものかと悩み、見なかったことにしようと立ち去ることに決めた。後ろに一歩下がる、が、
…、俺はだいぶ注意力散漫な気がする。
「うわっ?! 」
そこにあった掃除用具に激突し、バケツを倒して大きな音を出してしまった。馬鹿だ。
「誰だっ?!」
「あ、えっと、ごめん、俺」
「…っ、稔…?! なんで、ここに」
サァッと秀隆の顔色が青ざめるのが分かった。当たり前だけど、きっと聞かれたくない内容だったんだろう。本当に申し訳ない。
「ごめん、聞くつもりなかったんだけど、怒鳴り声が聞こえて、どうしたのかと思って…その、…あの人って、誰?」
しどろもどろに答えると、秀隆はばつが悪そうに顔をしかめた。
「……俺の兄貴」
「あ、お兄さんだったんだ」
「大きい声出すつもりはなかったんだけど…ビックリさせてごめんな」
「いや、その、俺は大丈夫。…それより秀隆は、大丈夫…?」
「え?」
「泣きそうな顔、してるから」
心配そうに見つめると、目をそらされた。
でも直後に、ぱっと顔を上げた秀隆の顔は、いつものように戻っていた。
「大丈夫!俺は元気だ。さ、仕事の時間になるから行こう」
「え、あ、うん」
それ以上突っ込んで聞くわけにはいかず…
その日はあまり会話が出来なかった気がする。
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