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偽りの仮面
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「今日は天気が悪くて大変だったな」
「あ、…そう、だな」
仕事が終わり、ロッカールームで帰り支度をしていると、にこ、と秀隆に微笑みかけられた。返事を返したけど、たぶんぎこちないものになってしまってると思う。
「…」
秀隆の様子がおかしい。
…と、思う。
確かに表面上はいつもの秀隆だ。
愛想がよくて、爽やかで、みんなに好かれている河瀬 秀隆。落ち込んでるわけではないし(むしろいつもより溌剌と活動している気がする)、俺にだっていつもみたいに接してくれてる。
でも、何かがおかしいと感じる。
「あのさ…秀隆」
「うん?」
「何か、あった…?」
「へ?何で」
「あ、いや、別に気のせいならいいんだ。いつもの秀隆とちょっと、違うなって思って」
「…。そうか?どこらへんが?」
「ええと…無理してるように、見える…かな」
「…」
「あ、体調悪い?」
「いや…大丈夫。元気」
「そ、そっか」
それきり、会話が途絶える。
秀隆のことをよく知らないのに、踏み込みすぎたかもしれない。
たぶん、原因はこの間来たお兄さんだ。
そのあとから秀隆の態度がおかしい。
「…ごめん」
「何で稔が謝るんだよ。心配してくれたんだろ? ありがとな」
いつもの笑顔。
誰に対しても変わらない、平等な笑顔。
でも、その笑顔に妙な違和感がある。
何でそう思うんだろう。
「じゃあ…またな、稔」
「あ、うん、また明日」
そう言って秀隆は出ていってしまった。
俺はもやもやしながら帰り支度を済ませ、職場から出た。こんな時どうしたらいいのか分からない。もっと上手く声がかけられたらいいのに、と思う。
手にもった携帯をじっと見る。
「蓮矢には…相談できないよな…」
蓮矢は秀隆の話題を出すと少しだけ空気が変わる。それに、恋人を前にして他の男の話題を出すって、無神経な気がする。俺だって蓮矢が奏太さんの話題を出すとムッとする。
「…、…ん?」
トボトボと歩いていると、人影が見えた。
顔を上げると、傘をさす人が二人。
片方は秀隆。もう片方は…
「…何度も来んなよ」
「お前が色好い返事をくれたら来なくていいんだけどな」
「じゃあ毎日来るってか? 暇だな」
「…秀隆」
秀隆のお兄さんだ。
秀隆の顔はこちらからは見えないけれど、何故だか泣きそうな表情のような気がした。
ぎゅ、と傘の柄を握る。
「…っ、」
つかつかと歩を進め、秀隆の隣に並ぶ。
「あ、あの!」
「…?誰だ?」
「ひ、秀隆、このあと、用事があるんで、借りていきますね!」
そして唖然とする秀隆の腕を引っ張って足早にそこを逃げ出した。
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