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嫌わないで (河瀬視点)
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稔に言ったことは本当だ。
あのまま話を続けていたら俺は兄貴を殴っていたと思う。
兄貴の言葉はいつだって正しい。
正しいから、息がつまる。逃げ場がなくなる。
俺の汚い部分まで暴かれて、「ほら、俺が正しかっただろう?」と欠片も悪びれることなく告げられる。俺の弱さを許さない言葉が俺を追い詰める。
だから、稔が割って入ってくれて助かった。
稔は優しい。今もきっと、一生懸命俺のことを考えてくれてる。
さっきだってそうだ。俺の些細な変化を分かってくれた。俺はいつも通りの「河瀬 秀隆」を演じることができてるって、そう思ってたのに。違うって、気付いてくれた。
ああ、そうだよ。俺は…そんな稔のことが好きだ。「欲しい」って、心から望んでる。
「稔は前にさ…俺のこと、いい奴だって言ってくれたよな。気が利くし、優しい奴で、周りもそう思ってるって」
「そういえば言った、かな…今もほんとにそう思ってるよ」
「ありがとな。まぁでも、俺そんなにいい奴じゃないんだ」
おもむろに立ち上がり、一冊のアルバムを取り出す。そうしてパラパラとページをめくり、クラスの写真を見せた。
「…?卒業アルバム?」
「中学のときのやつ」
「へぇ…」
稔が興味深げに写真を指で辿る。
でも、俺の顔写真のところで手を止め、目をぱちくりと瞬かせた。
「これって秀隆?」
「ああ。今とだいぶ違うよな」
「あ、でもよく見ると面影があるかも」
じーっと写真と俺を見比べ、うんうんと頷いている。もっとドン引きされると思った。
「この写真、無理矢理髪の色暗くさせられて、ピアスも外せって言われて撮ったやつなんだよな。一番イキってた頃の写真はこれ」
ぴら、と1枚の写真をさらに見せる。
金髪で目付き悪くて、ピアスは両耳に3つずつ。制服も着崩していてだらしない。
「この頃は色々あってさ。ほんとしょーもない生活してた。若気の至りってやつ。はは」
にこにこと笑いながら話しかけるけど、稔の表情は暗い。たぶん俺への幻想が砕け散って失望したんだろう。
それはそれで構わない。もう、兄貴とのやり取りを見られた時点で、どうでもよくなった。結局取り繕えなかったし。
「…秀隆」
「んー?」
「俺は、…その、何も言える立場じゃないけど、秀隆は秀隆だと思う」
「え…」
「別に写真見ても、秀隆がいい奴だって感じたのは嘘じゃないし…俺の中の秀隆は変わらないよ」
「…、…」
予想外の言葉に何も言えなくなる。
「あ、俺のこと遠ざけたいっていう意味で見せてるなら、その、直接言ってくれると助かる…」
「い、いや、遠ざけたいなんて、思ってない」
「そっか。よかった」
にこりと微笑みかけられ、心臓がどくりと跳ねた。どうして稔は、俺がずっと欲しかった言葉をいつもくれるんだろうか。
「…写真、見せたのは、」
「うん」
「俺の話、聞いてほしいから、かな」
「わかった」
そして俺は、きっとこうやって…
誰かに話を聞いて欲しかったんだ。
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