アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
どれほど望んでも① (河瀬視点)
-
俺が生まれた家は、「完璧」だった。
というよりも、「完璧」を求める家だった、っていうのが正しいかな。
両親は医者。兄貴が二人いて、両方成績はトップクラス。しかも文武両道で品行方正。
家族はみんな人望があって、色々な人から求められ、頼りにされてた。
俺は…
「こんなこともできないのか」
幼い頃から勉強はできないし、人をまとめる力なんてないし、周りに埋没するような奴だった。運動はそこそこできたけど…平均よりちょっと上なくらい。
小学校の時くらいから両親の顔は曇り始め、中学校に入ってからは失望され、見放されるようになった。ほんと、見向きもされなくなったんだ。
それでも昔は頑張ったさ。少しでも親や兄貴たちに近付けるように、期待に応えられるように、努力した。周りがやっている以上に練習したし、勉強もした。振り向いてほしかったから。
…でもダメなんだよな。普通よりは「優秀」な部類だったんだけど、兄貴たちに勝てるものは何一つなかった。
決定的だったのは、中2の秋頃の会話だな。
その日、初めて1教科だったけど、満点をとったんだ。だから褒めてもらえると思った。よくやったな、って俺に笑いかけてくれると思った。
…でも父親は俺のテストの答案を一瞥しただけで、視線を新聞に戻し、
「お前は欠陥品だ」
とだけ言われた。
何を言われてるか最初分からなくて、息が詰まって、何も言えなくて、視界が真っ暗になるような気がした。
両親にしてみれば、学校のテストで満点をとるのは当たり前のことで、たった1回なんて、何の価値もないんだそうだ。
そこで張り詰めていた糸がぷつん、と切れた気がした。そうか、俺は何をしても認められることはないんだ、って思った。
酷く冷静だったのを覚えてる。
心が冷えていくのも分かった。
その「完璧」な家族を壊してやりたいって思ったのはそれが最初だったと思う。最初は、とにかく困らせてやろうって思ってたな。
だから、いわゆる「悪い奴」とつるむようになった。髪を金髪に染めた。ピアスの穴も開けた。酒もタバコもやってみた。
だけど、結局両親は怒らなくてさ。
放っておかれた。
何にも干渉してくることはなかったよ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
86 / 103