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どれほど望んでも⑦ (河瀬視点)
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「……、…今、何時だ…?」
体がダルくて動かせない。
何かを考えることも億劫で、ぼんやりと天井を見つめる。朔の家に監禁されてから一体何日経ったのか分からない。携帯はぶっ壊されたし、この部屋には時計もカレンダーもテレビもない。外から一切遮断されていて、かろうじて窓から差し込む光で朝なのか夜なのかが分かる程度だ。
ベッドの柵にくくられていて手足もあまり自由がきかないし、朔がいないと何もできない。
「……朔」
呼んでも返事はない。
この部屋には俺だけしかいないようだ。
まぁいいや。
朔とは会話なんて成立しないし、滅茶苦茶に抱かれるだけだから、たまには休憩したいと思っていたところだ。
「…?」
何を考えるでもなく微睡んでいると、ガチャガチャと乱暴な音が響いてきた。ドアを無理矢理開けようとしているような音だ。
「朔、なわけないか…鍵あるもんな…」
無感情にその音を聞いていると、ガンッという一際大きな衝撃音が響いた。
「……秀!!」
「…え」
現れたのは意外な人物だった。
最近まともに喋ってなかったのになぁ、なんて、そんなことを考えていたことを覚えてる。
「…滉?」
「秀!…っ、よかった、無事…、じゃねぇみたいだけど、とにかく、生きててよかった…マジで心配した」
「何で、ここに…」
「話はあとだ。とにかくこんなとこ早いとこ出るぞ!」
滉の後ろには警察官も見えた。結構な人数で来たようで、外には救急車が止まっていた。大袈裟な、と思ったけど、有無を言わせず俺は病院に搬送された。
**
「1ヶ月も音信不通だったんだぞ、お前」
「あー…そんな経ってたのか。知らなかった」
「マジでどんな生活してたんだよ…」
「え?ああ、朔とは…」
「あー!いい!いい!ごめん!思い出さなくていいから!」
「…というか、滉は何で来たんだ?」
「そりゃ、友達が行方不明になったら心配すんだろーが」
「…、…滉らしいな」
こんな俺のことをまだ友達だと思ってたなんて、やっぱり滉はいい奴だ。
しかもどうやら、普段絶対に使いたくないと言っていた、親の権力と金とコネを使いまくって俺を捜索してくれたらしい。
入院してる病院も個室だし、俺なんかにこんなに金使ってどうするんだ?と首を傾げてしまう。
しばらく他愛のない話をしていると、ドアが開いた。現れたのは意外な奴で、嫌悪感よりも先に驚く気持ちの方が先に出た。
「…。立山さんに世話になったと聞いてな。君が滉くんかい?」
「え?あ、はい…そうですけど」
「私は秀隆の父親だ」
久しぶりに会った顔をまじまじと見てしまう。
見舞いなんてする奴じゃないのは確かだ。
「立山さんが支払ってくれたものはお返ししましょう。息子の不祥事はこちらで処理をします」
「不祥事って…秀は被害者ですけど」
「付き合っていた男に監禁されていたらしいな」
滉を見ず、親父は嫌悪感丸出しの表情で俺を見た。相変わらずだ。
「それが何」
「ふん。お前みたいな奴と付き合う輩だ…自業自得だな」
「ちょっ…?!被害者だって言ってんだろ!」
その言葉に、滉が噛み付いた。
でも親父は一瞥しただけで、表情を崩すことはない。
「全く…うちの家系に何故お前のような欠陥品が産まれたのか分からん。金は払ってやるから、うちとは関係のないところで生きてくれ」
「…言われなくてもそのつもりだけど。あと、別に金なんていらねぇよ」
「手切れ金だ。二度と関わってほしくないからな」
「…はは」
乾いた笑いしか出てこない。
ほんと、こいつはブレないな。
「黙って聞いてりゃ…!」
「滉、いいよ」
「良くねぇ!」
滉は今にも掴みかかりそうだったけど、とりあえず止めといた。暴力沙汰になって困るのは滉の方だ。
親父は通帳だけ投げて寄越し、そのあとは何も言わずに去っていった。
「くそっ!腹立つ…!!」
「何で滉が怒るんだよ」
「普通怒るだろ!何だあいつ!」
「昔からああだから、別に今さら何も感じない」
「…っ、」
「なぁ、そうだ、それより…朔は?」
「…、…え?」
怒っていた滉は、困惑したように俺を見た。
「…赤嶺には、お前とはもう二度と会わないことを約束させたけど」
朔は、俺が入院してからすぐに、拉致監禁容疑で警察に捕まったそうだ。そして二度と俺に近づかないという誓約書を書いたらしい。
「…ふーん」
「ああ。もう安心していいからな。接近禁止令も出されてるし、赤嶺自身ももう二度と秀に関わらねぇって言ってるし」
「あ、滉。俺のどが乾いた」
「へ」
会話を遮ってそんなことを言ったら、滉はきょとんとした顔になった。微笑みながら「何か飲み物ほしいな」と告げると、困惑しつつも滉は頷いてくれた。
「お、おう。分かった。じゃあ買ってくる」
「よろしく」
病室が静かになり、ぼんやりと外を眺める。
そっと目を閉じて、朔を思い浮かべる。
『ずっと一緒に居てやるから』
そうやって、朔は愛しそうに俺を見つめていた。
俺のことが好きだって、言ってた。
「…ずっとなんて、簡単に言うなよな」
朔。俺は別にお前になら囲われていても良かったんだ。逃げなかったのは、抵抗しなかったのは、お前の気持ちが嬉しいと、どこかで感じていたから。
視界が滲む。
この気持ちが恋だとか愛だとか、そんな言葉で片付けられないものだってことは分かってる。俺はただ、愛されてる感覚に浸って、傲っていただけだ。
「あーあ…またフラれた」
結局、朔も俺に愛されてる感がないから閉じ込めたし、簡単に手放したんだろう。
例えば俺が一言でも、「愛してる」と伝えていたら、朔と今でも一緒に居られたのだろうか。
考えても考えても、答えは出なかった。
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