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一筋の光
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全て語り終わったのか、秀隆は口を閉ざし、俯いた。表情が見えない。俺は何て言ってあげればいいのか分からず、黙ってしまっていた。
「…ごめんな、こんな話聞かせて」
「!え、あ、いや…そんなこと」
慌てて否定しようとすると、光のない暗い瞳で見つめられた。どうしよう。何か気のきいたことの一つでも言えたらいいのに、出てこない。
「……稔はさ、俺と会った時のこと覚えてる?」
「会った時?」
返答に困っていると、突然そんなことを聞かれた。河瀬に初めて会った時? あまり覚えてないけど…何かあったっけ。
「何かさ、稔は小動物みたいだった」
「しょ…小動物?」
にこりと微笑まれながら言われたことは意外なことだった。というか、話の流れ的にどうしてそのことが思い出されたのか分からない。
「稔って人見知りだろ」
「うん、まぁ…そうだな」
「俺と話す時も、おどおどビクビクしててさ、そんなに怖がんなくてもいーのにって思った」
「怖がってたわけじゃ…話すのが苦手なだけというか……あ、でも秀隆はたくさん話しかけてくれたよな。ありがたかった」
「…。うん。何か力になれたらいいなぁなんて、そんなこと思ってさ」
目を細め、優しく微笑みながら秀隆が俺の頭をぽんぽんと軽く叩く。子ども扱いされてるようでむず痒い。
「でもそれだけじゃなくてさ、真面目だし、優しいし…俺のことちゃんと見てくれるし、演じてた『河瀬 秀隆』じゃなくても受け入れてくれてる」
たぶん、だけど…
秀隆が「違う自分」になる時に参考にしたのは、滉さんなんだと思う。秀隆のことも滉さんのこともそんなによく分かってないけど、今まで接してきた二人と、今聞いた話で何となくそう思った。
「その…俺は偉そうなこと言える立場じゃないけど、秀隆は秀隆…だと思うよ」
「…っ!」
「俺に話してくれて、ありがとう」
「…稔…」
「何か出来ることがあったら言ってほしい、かな。…なんて、俺ができることなんて無いかもしれな、」
言葉を言い終わる前に、引っ張られ、俺は秀隆の腕の中へとすっぽり収まってしまった。
「ひ、秀隆?」
「稔は優しいな…俺のこと、認めてくれるんだ」
「そりゃ、まぁ…秀隆いい奴だしさ。秀隆に酷いこと言う人が多かったみたいだけど…ほら、滉さんとか、俺とか…ちゃんと、秀隆のこと必要だと思ってるから」
「…っ、はは…ほんと、お前って…」
「……その…、が、頑張った、な?」
背中を優しく撫でてやると、秀隆は殊更強く俺のことを抱きしめた。
俺が沈んでるとき、蓮矢に優しく撫でられたら元気が出たから、俺もやってみたくなったんだ。
「……っ」
「わ」
どさ、と後ろに押し倒される。
ちょっとした衝撃に驚いていると、秀隆の真っ直ぐな瞳に射竦められた。両手が力強く握られ、体も体重をかけられて押さえ込まれてる。動けない。
な、何だろう、この状態…。
「ひでた、」
「稔…、…好きだよ」
どんなことを、どんな顔で告げられたのか理解できないまま、唇に落とされた柔らかい感触だけが、やけに生々しく感じられた。
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