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走ること
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敦と拓海がグラウンドに着く前に静の準備体操は終わってしまった。
「ここを一周全力で走って」
一周は約200mある。
ハルは静が運動オンチだとにらんでいた。
「自分のタイミングでスタートして良いですか?」
「勝手にどうぞ」
静はクラウチングスタートの姿勢を取り、1つ息を吐いてスタートを切った。
元々走る事が大好きで、事故に遭うまでは学年でも1、2を争う程の駿足の持ち主だった。
カーブを曲がる毎にスピードは加速していく。
グラウンドに着いた敦も、拓海も、拓海に呼ばれた鈴成も、そしてここに呼び出したハルまでもが、静の走る姿に見惚れていた。
最後までスピードが落ちる事なくゴールをすると、緊張が解けたのか、静はその場に蹲る。
「走れるじゃん。なら何で体育の授業出てないの?」
「そ、れは……ゴホッ、ヒュッ、ゴホゴホッ、ゴホッ」
ピチャッ
「え!?」
静は咳と共に血を吐いた。
「これ、ですかね、、ゴホッ……ゴホッ」
ピチャッ、ピチャッ
何度かそれは続いた。
「静くん!」
「静!」
「本島くん!」
拓海と敦と鈴成が静に近づく。
「寄らないで! 汚れるから。これは想定内だから大丈夫。でも拓海さん、風間先生にだけは連絡して下さい」
「その前に明さんに……」
「ダメっ! 明さんには言わないで」
明に電話をしようとして手が止まる。
「どうして?」
「僕が走りたくて走っただけだから」
ここにいる誰もが、そこで蒼ざめているハルが原因だと分かっていた。
汚れる事を全く気にせず、鈴成は何も言わずに静を抱き締める。
「鈴先生!?」
「とりあえず、保健室に連れて行く」
おんぶをするという選択肢は無いのか、鈴成はいつもお姫様抱っこをする。
「諸角、お前も一緒に来い」
「あの、こんな事に、なる、なんて……」
「言い訳は聞きたくない」
鈴成の冷たい声色にハルは更に蒼ざめる。
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