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episode.16 距離
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〜奏多side〜
「お風呂さんきゅ。」
「ん。冷蔵庫開けて、麦茶でも飲んでて。適当にテレビとかつけていいから。俺も風呂。」
智夜はそう言って、奏多と入れ替わるように浴室に向かう。
借りたバスタオルからは、あの日と同じ、爽やかな柔軟剤の香りがする。
なんとなく、安心した。
そのバスタオルを頭からかぶったまま、テレビをつけてソファに座って膝を抱える。
深夜のニュース番組がついた。
「…またこれか。」
最近のニュースは、財閥の当主がどうのこうのとか、事故がどうのこうのとか、外交がどうのこうのとか。
とにかく、奏多には遠い話すぎて理解できないし、興味もわかない。
チャンネルを回し、ドラマの再放送がやっているチャンネルに落ち着いた。
『どうして俺じゃダメなの…?』
悲しそうに微笑むこの俳優。
確か名前は。
「木之本翔也か。」
「風呂はっや!!」
「シャワーだけ浴びてきたからな。この俳優好きか?」
「え。」
「食い入るように見てたから。」
「いや…別に。」
少し、智夜に似ていると思っただけだ。
見た目の特徴が似ているわけではないが、爽やかさが似ている。
智夜はこの俳優のように、ニコニコ笑ったりはしないけれど。
「誕生日同じなんだよな。」
「えっ、そうなの?!」
「…そんなに驚くか?いるだろ、誕生日同じの芸能人くらい。」
「ま、まあ…そうかもしれないけど。」
「カナは誕生日いつだっけ。」
「バレンタインデー。」
「覚えやすいな。」
「だろー!でも誕生日プレゼントはチョコレートばっかり!!」
「…甘そう。」
「一緒に何かくれたりすることも多いけど、何せチョコだらけ…」
「でもカナ、甘いの好きだろ。」
「まあ、うん。」
智夜はそっけなく見えて、友人の趣味嗜好は覚えてくれている。
そして、人をよく見ている。
「少しは落ち着いたか。」
「え、あ、うん。……ごめん。」
体の震えはもうないし、気持ちも落ち着いている。
それを智夜は見抜いている。
「別に。俺の気が向いただけだから。」
だからと言って、距離は縮まらない。
ある一定距離を保たれる。
奏多にとっては、その方が好都合かもしれなかった。
智夜への気持ちは、恋愛感情とも少し違うような気がしているが、自分では制御できない。
抑えようと思っても、忘れようと思っても、いつもみたいにうまくいかないのだ。
理由は奏多自身が一番よくわかっている。
ただ、それを認めれば、必然的に思い出したくないことを思い出すことになる。
だから認められない。
"なぜか"智夜には惹かれる。
そういうことにしておくのだ。
そっと深呼吸をして、脳裏に浮かんだ笑顔はかき消した。
その代わりに、首にかかったチェーンに触れる。
やはりこれが、一番安心をもたらしてくれた。
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