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episode.29 夢
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〜奏多side〜
「ただいま。」
「おかえり。体調大丈夫?」
家に着くなり、知夏にそう言われる。
「うん、さすがにもう平気だよ。」
「ならいいけど…無理はしないでね?」
「うん。それ一昨日も聞いたよー?」
クスクスと笑うと、知夏もやっと笑ってくれる。
かなり心配させてしまったようだ。
「ちーの言う通りにしときなよー、奏多。」
「涼兄。」
降りてきた涼は、ボサボサの髪で、今日は1日家で課題か何かと格闘していたらしい。
「奏多は無理するところあるからね。」
ポンポン、と頭を撫でられ、そう言われる。
涼は本当にお兄ちゃんみたいだ。
「そうそう。あんたすぐ突っ走るからね。」
「月乃までそういう事言うー。」
「あの時だって、無理して、自分がひどい目にあって…」
「つーきーの。それは言わない約束でしょ。」
「…わかってる。」
ぐっと唇を噛み締めた月乃。涼と知夏は不思議そうな顔をしていたが、奏多は気付かないふりをした。
月乃が言いたいのは、おそらく昨年の春のことだ。
どうして庇ったのか、と何度も言われた。
奏多としては過ぎてしまったことなのだから、月乃と話すことではないと思っている。
それが奏多にとって、トラウマかどうかはまた別だが。
「…そういえば内田は?」
「今日は遅くなるって言ってたわ。」
「ふーん…」
やはり女とラブホテルに行っているのか。
もしかしたら今日は帰ってこないかもしれない、と思うと少し気が楽だった。
奏多以外は既に入浴を終えていたので、先にご飯を済ませ、それから風呂に入る。
風邪を引いたばかりだから、体をしっかり温めてからあがった。
月乃と知夏にしつこく言われて、髪の毛もドライヤーで乾かし、明日の準備を済ませてベッドに入った。
程なくして眠気が襲ってきて、それに身を任せる。
ふわふわとした意識の中、奏多は温かな夢を見た。
自分の大好きなおばあちゃんとおじいちゃん。
それに両親。
みんなから愛されて、幸せに過ごす小さな自分。
そしてそこには。
「奏多。」
ニコリと柔らかく笑うあの人もいる。
テストでいい点をとったら、みんなが褒めてくれる。
ピアノやバイオリンを弾けば、奏多は天才だと、嬉しそうに笑って言ってくれる。
たくさん抱きしめてくれて、たくさん頭を撫でてくれる。
ご飯はいつも一緒に食べてくれるし、一緒に寝てくれる。
風邪をひいたらみんなが心配してくれて、治ったらみんな喜んでくれて。
誕生日やクリスマスには、プレゼントとケーキが並んで。
右側を見ても、左側を見ても、後ろを見ても、前を見ても、誰かがそこにいて、優しく微笑みかけてくれる。
幸せな、夢。
「…夢、だよな。」
目を覚ました奏多は、ポツリと呟く。
もう、夢でしか会えないその人たちを見たのは、久しぶりのことだった。
「…夢でも、いいよ。だから、毎日…」
会いに来て。
奏多の声は、数滴の雫とともに、枕に吸い込まれて消えていった。
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