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episode.30 動き出す
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〜悠汰side〜
ラブホテルを出た悠汰は、愛用の青いバイクに跨った。
悠汰が賢杜と知り合ったのは、高校3年生の時のことだ。
1、2年の時はクラスが異なり、名前と顔は知っていたが、きちんと話したのは3年生の時が初めてだった。
たまたま進路も同じで、話も合うことから仲良くなったのだが、賢杜は利己的なところがあるため、周りからは敬遠されていた。
付き合いがそれなりに長い悠汰から見れば、賢杜は間違いなく、あの青年に恋している。
賢杜があんなに人に執着しているのは今まで見たことがないし、そもそもバイセクシュアルとはいえ、ほぼほぼヘテロの賢杜が男を抱いたことが驚きだ。
自分のものにしたい、自分を見てほしい。
そんな気持ちが先行して、乱暴なやり方で振り向かせようとしていると見える。
「賢杜もバカだよねぇ…そんなやり方じゃ靡かないっての。」
思わずそう呟いてしまう。
賢杜は、悠汰が思っていた以上に不器用な男らしい。
それも、本命相手には特に。
ただ、賢杜が不器用なこととは別に、この恋には壁がある。
あの青年には、賢杜が知り得ない何かがあり、本人はそれを必死で隠そうとしているということだ。
彼が特定の相手を作らない理由を、賢杜は、愛されるのが怖いからだと結論づけていたが、そんな単純なものではない気がする。
直接の理由はそれだったとしても、愛されることが怖いということの根本の原因は、彼の心の深いところにある傷と関係している。
悠汰はそう思っていた。
「…似てるんだよなぁ、あの人と。」
表面ではいい顔をして、誰にでも優しくして、求められれば与える。
けれどその心には、深い深い傷があって、簡単には癒せないし、見せてももらえない。
悠汰は優しく微笑む男を思い浮かべていた。
*
〜本沢side〜
「内田賢杜、ねぇ…」
統計学教授室。
奏多が出ていったその部屋で、本沢は1人呟いた。
奏多にやたら執着しているという男は、内田賢杜で間違いないだろう。
奏多本人に確認したわけでは無いが、冬休みが始まる少し前から、奏多に熱烈な視線を送っていた。
賢杜は気がついていないのかもしれないが、あれは一目惚れ的なものだと、本沢は確信していた。
そして、今の賢杜に、奏多を射止めることは無理だ、ということも。
本沢も、奏多のことを知っているか、と言われるとよく知っているわけではない。
しかし、奏多が時折見せる表情や、学内の噂などを聞いていれば、ある程度の予測は立つ。
昨年の春、奏多たちが入学してきてすぐ、奏多に何かがあったらしい、ということも、本沢は察していた。
「…ま、暇つぶしくらいにはなりそうだしな。少し遊んでやるか。」
本沢はそう呟き、ニヤリと笑った。
*
〜no side〜
「ひろ兄さん…」
1枚の写真に向かって呟く。
柔らかく笑う男の写真。男の指には、銀色のリングが光っていた。
「奏多は、僕が必ず守るから。心配しないで。」
声の主は、一筋の涙を流し、写真を机の中にしまった。
少しずつ動き始めた歯車は、複雑に重なりあっていた。
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