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episode.33 嫌な男
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〜賢杜side〜
「…遅い。」
賢杜はそう呟きながら車を降りた。
奏多から電話があり、迎えに来てやったというのに、その奏多がなかなか来ない。
電話の最中、遠くに本沢の声が聞こえていたから、統計学教授室にいたはず。
そこからこの門まではそんなに時間がかからないはずなのに、もう15分も待たされている。
賢杜はスタスタと校内に入っていき、統計学教授室を目指した。
(…誰だ?)
賢杜と反対側からこちらに向かって歩いてくる人影。
奏多かと思ったが、シルエットが違う。
近くに来て見えた顔に、見覚えはなかった。
だがその男は、こちらを見てニヤリと笑った。
なんだか、嫌な感じがした。
(…早くあいつ見つけて帰ろう。)
賢杜はスマホを取り出し、奏多に電話をかける。
コール音が、思ったより近くで鳴った。
「おっと、このスマホの持ち主と知り合いですか?」
先ほどすれ違った男が持っていたらしい。
「…あぁ。シェアメイトだ。」
「へぇ…じゃあ渡しておいてもらえますか?さっき拾ったんです。」
「わかった。」
男はスマホを賢杜に渡すと、さっさと行ってしまう。
(…妙だな。)
スマホのロックが解除されている。
奏多のスマホは指紋認証だったはずだ。パスコード設定はしていなかったから、他人が開けられるわけがない。
(…あの男…このスマホになにかしたのか?)
奏多の手を使ってロックを解除し、なにか嫌がらせでもしたのかもしれない。
そう思って、変なアプリ等が入っていないか調べる気になった。
賢杜はスマホアプリの開発で会社を立ち上げた。
必要な情報と、自分の顔写真を入れると、その人のその時の状況に応じた髪型や服装を提案してくれるというものだ。
今では別のアプリの開発も手がけている。
そのため、不審なアプリや、おかしな設定は簡単に見抜くことが出来る。
もちろん、奏多のプライバシーを侵害するつもりは無いので、電話帳やLINE等のSNSアプリは見れない。そこに何かを仕込まれていたら、賢杜にも分かりかねる。
(不審なアプリはなし、か…)
アプリ内にウイルスが仕込まれていないか、と考えたところで、ガタガタッ、と音が聞こえて、賢杜はスマホから顔を上げた。
「…あそこは今は使われていないはずだが…」
古びた資料室。
今は完全に物置と化していて、資料室の役割は果たしていない。
「げほっ、げほ…」
「…お前、何してる。」
「ひっ!!!…なんだてめえかよ…」
扉をバタン!と勢いよく開けて、咳き込みながら出てきたのは奏多だった。
「何してる。」
「…ちょっと、資料探しに。今の資料室になかったからここかと…課題に必要だったから…」
「なんで連絡しない?すぐに来るって言っただろ。」
「悪かったよ、スマホどっか行っちまって…」
嘘だということは、容易にわかった。
目が泳いでいるし、若干だが顔色が悪い。
先程の男に、何かされたのだろうか。
「スマホならここだ。」
「なっ、お前スマホ持ってねえって分かってんなら、連絡しろとか無茶言うなよ!」
「さっき男が渡してきた。拾ったそうだ。」
そう言うと、本当に少しだけ、奏多の肩が震えた。
怯えか、恐怖か。とにかくいい反応ではない。
「ロックが解除されてたから少し調べさせてもらった。」
そう言った途端、奏多は賢杜の手からスマホを奪い取った。
「中身見てねえよな?!」
「さすがにプライバシーは守る。SNSのアプリなどは開いていない。」
「写真フォルダは?!」
「…?なぜそこを開く?俺は不審なアプリや、ウイルスが仕込まれていないか調べていただけだ。」
「…ふーん、ならいい。」
あからさまにほっとした様子の奏多。
写真フォルダに、見られてはいけないものでもあるのだろうか。
例えば、あの男が握っている、奏多の弱み、だったりするのだろうか。
「…さっさと帰ろうぜ。」
「…お前を待ってたんだが。」
「悪かったって。早く行こう。」
奏多はそう言って歩き出す。
(…なんだ?変な歩き方しやがって…怪我でもしたか?)
どこかを庇っているような、痛めているような、そんな変な歩き方をしている。
もしや、それで迎えを呼んだのだろうか。
「ちょっ、おい!なにすんだよ!!」
「なにって、姫抱きだが。」
「そりゃわかる!!なんで姫抱きなんかするんだよ?!」
「キャンキャンうるせえな…お前が変な歩き方するからだろうが。」
「え…」
「どこか痛めたんだろ。怪我してるなら素直に言え。」
そう言うと、奏多は大人しくなったが、なんだか複雑そうな顔をした。
あの男への反応や、今やけに大人しいのを見ると、あの男が奏多に何らかの嫌がらせをしていると見て間違いなさそうである。
(だが、一体何を…?)
賢杜は考えようとして、途中でやめた。
奏多について詮索しても、奏多は教えてくれないだろうし、かえって距離を置かれるかもしれない。
それなら、今は適当に優しくしよう。
だが、あの嫌な感じの男のことは、少し注意して見ておこう。
そう思った。
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