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episode.59 靴選び
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〜奏多side〜
1月22日
(最悪だ。)
冬休みのため朝からバイトの奏多は、昼の休憩時間に、休憩室で不機嫌オーラを振りまいていた。
腰が痛いし、尻に違和感があるし、乳首はヒリヒリ、じんじんするし、何より眠い。
「林くん…大丈夫?」
「…大丈夫です。」
社員に心配そうにこえをかけられ、笑って見せる。
顔色が悪い訳では無いのは知っている。
むしろ、最近の中で1番顔色がいい、と知夏から言われて複雑な気持ちになったくらいである。
同じ寝不足でも、精神的な疲れがないと顔色は違うらしい。
癪だが、賢杜との行為は嫌ではなかった。
痛みもなければ、恐怖もなく、快感だけ。
「あー…くそ…」
思い返すと恥ずかしい。
自分から賢杜を強請ってしまった。
(やめた。働こう。)
ちょうどインの時間になったので、身なりを整えて休憩室を出る。
「でも私そんな派手な靴なんて履いたことないし…」
「大丈夫だって!女の子っぽいとこ見せて、彼に振り向いてもらおう?!」
戻ってすぐに聞こえてきた会話。
靴を選ぶのを迷っているらしい。
「ね、店員さんに聞いてみよ?」
「う、うん…」
これは来るな、と身構えていると、案の定声をかけられる。
「すいません!この子の、この服に合わせる靴を選びたいんですけど…」
服装は白いブラウスに、グレーのチェックスカート。
女性の髪の色は限りなく黒に近い茶色で、手に持っているコートはキャメル色。
「そうですね…全体的に色味が少ないので、靴には明るい色を選ばれると、映えると思いますよ。」
今は黒のショートブーツを履いているが、これだと少し地味な気もしてしまう。
「こちらとか、いかがですか?」
奏多が手に取ったのはワインレッドのスエード生地のパンプスだ。
「これならヒールも低めですし、色も派手すぎず…でもヒールの付け根にリボンモチーフがついてますから、可愛らしさもあると思いますよ。」
にこり、と爽やかな笑顔を心がける。
「へぇ…!あの、お兄さんだったら、どんな靴履いてきてくれたら嬉しいですか?」
「んー…TPOにもよりますけど…外でデートだったら、歩く時はヒールだとちょっと心配しちゃいます。靴擦れとか辛くないかなあ…って。でも、彼女だったら、好きな靴履いて、好きな格好してほしいですね。その服装と靴に合わせたデートプラン練っちゃいます。」
「お兄さんイケメーン!!」
「で、でも…けんとさんはそういうタイプじゃ…」
(…けんと?)
やけに聞き慣れた名前だけれど、同じ名前の人なんてきっとたくさんいる。
「まぁたしかにね…」
「その、けんとさん?と会う時に履く靴なんですか?」
「そーなんです!」
靴を買う本人ではなく、友人が答える。
「どこで会うんですか?」
「立食パーティー行くんです。」
「なるほど…それでしたら落ち着いた色を選ばれた方が無難かもしれませんね。」
スカートとブラウスということは、ドレスコードはスマートカジュアルだ。
てっきり外でのデートかと思っていたが、立食パーティーとなるとまた話は違う。
「こちらは、いかがですか?スカートと色味が近いので、靴が浮かないと思いますよ。」
「この形可愛いね。」
「うん。これにします。」
「ありがとうございます。せっかくの立食パーティーですから、ぜひ、そのけんとさんとたくさんお話してくださいね。」
「はい…!」
女性は笑顔で靴を買って帰って行く。
接客をしていると、これが一番楽しいし、嬉しくなる。
「結構高いの買わせたねー。」
店長がそう言ってクスクス笑う。
「そんなつもりなかったんですけど。」
「いやいや、ナイスナイス。」
ポンポン、と肩を叩かれ、店長は別の仕事に行く。
「すいませーん。」
「はい!」
その後奏多も別の仕事に追われ、"けんとさん"の立食パーティーは、すっかり頭から抜けてしまった。
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