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episode.62 感情
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〜奏多side〜
「あれ…この前の店員さん?」
パーティーも半ばに差し掛かった頃、月乃と、同じく招待されていた悠汰と話していた奏多は、後ろから声をかけられて振り返った。
「あ…この前の…」
そこにいたのは、先月末にSHOSE Aに来て靴を買っていった女性の2人組だった。
「店員さんも招待されてたんですね!賢杜さんと同じ大学なんですか?」
「あ、はい。同学部の後輩で…」
「あの、この前はありがとうございました…!」
靴を購入した方の女性が、そう言って頭を下げる。
「あ、いえいえ!俺は店員としての対応をしただけなので…」
「店員さんのおかげで、賢杜さんに靴を褒めてもらえたんです。」
ふわりと笑う女性は、可愛らしい人だった。
背は155cmほどだろうか、少し小さく、足腰が細くて、けれど胸はあって、女性らしい、という感じだ。
「それはよかったです。」
「賢杜さんとあんなにお話出来たの初めてなんです…会社の取引で何回が会ってるんですけど…本当にありがとう。」
頬をほんのりと赤らめてそう言う女性。
賢杜に気があるのだと、一瞬でわかる。
「お役に立てて何よりです。また靴買いに来てくださいね。」
奏多はにこりと笑ってそう言う。
けれど、なんだか変な気持ちになった。
あの賢杜が、女性の靴を褒めたのか、とか。
意外と細かいところを見てるんだ、とか。
俺は褒められたことないな、とか。
そこまで考えて、何を考えてるんだ、と自分自身に呆れた。
賢杜とはあくまで恋人ごっこなのに、まるで嫉妬みたいな感情じゃないか、と。
正直、賢杜が別の女性と付き合おうと、奏多にはどうでもいい。
なのに、こんな変なことが気になるなんて、自分でも不思議だ。
「奏多?どうしたの?」
「あ、なんでもないよ。ごめん月乃。」
「具合でも悪いの?ぼーっとしてるけど…」
悠汰にも心配そうにそう言われ、奏多は微笑む。
「大丈夫ですよ。ちょっと内田のとこ行ってきます。」
「うん、わかった。」
ちょうど話を終え、フリーになった賢杜のところに行く。
「どうした。」
「…あのさ。」
賢杜と目を合わせず、フラフラと視線を泳がせる。
「…なんだ。」
「…今日の靴、どう。」
「…………は?」
「や、なんでもねえ。気にすんな、忘れろ。」
何を言い出したんだ自分は。
そんなこと聞いて、どうするつもりだったんだ。
自分でも訳が分からなくなり、踵を返して逃げようとすると、手首を掴まれた。
「靴がどうした。お前がいつも使ってる革靴だろう。履きなれているものを立食パーティーに履いてきたのはマナーとしていいと思うが、それがなにかあるのか?」
「別に、なんでもねえから。忘れてくれ。」
「靴ズレでもしたのか?」
「違えから。」
奏多はふらりと視線をさまよわせ、つい、あの女性の方を見てしまった。
「…ほぉ…そういうことか。」
「え?なに?」
賢杜が何か呟いたのは、奏多には聞こえない。
「パーティーが終わったら、ホテルのロビーで待っていろ。」
「は?なんで?」
「いいから言う通りにしろ。」
「いやいや、意味わかんない。急に何?」
奏多が怪訝な顔をすると、賢杜はニヤリと笑って、耳元に口を寄せてきた。
「…上の部屋を抑えてある。体調不良者のためにだったが……これで意味がわかるな?」
「ーーーーーっ!」
「内田社長、少しお時間よろしいですか。」
「ええ、もちろん。」
賢杜はそのまま立ち去り、奏多は真っ赤になっているだろう耳を抑えながら、月乃たちのところに戻る。
「どうしたの?なんか話してた?」
「ちょっと、な。」
「奏多耳赤いよ。暖房効きすぎてる?水分とった?冬でも脱水にはなるんだからね。」
さすが看護学部生。しっかりしている。
けれど、耳が赤いのは脱水ゆえではないことを、奏多自身が1番よくわかっている。
「心配しないで。大丈夫だよ。」
大丈夫じゃないのは、奏多の気持ちの方だった。
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