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episode.81 BAR LUNA
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〜本沢side〜
「このマリネ美味しいですね。」
「ありがとうございます。」
三波の言葉にふわりと微笑むマスター。
初めて来た店だが、雰囲気もよく、マスターの感じもいい。食事もお酒も美味しいし、なかなかいいところだ。
LUNAはたしか月という意味だった。
名前といい、雰囲気といい、三波に合う店だ。
「スコッチ、ロックで。」
「かしこまりました。」
「本沢くんはウイスキーが好きなんですね。」
「え、ええまあ。」
そういう三波は、さっきからサングリアを飲んでいるが、今日は大丈夫なのだろうか。
「あの、酔わない…んですか?」
「え?あぁ…ワインやカクテルは大丈夫ですよ。どうも焼酎や日本酒はダメで。」
「そ、そうですか。」
「お酒弱い方なんですか?」
「ふふ、この前彼に迷惑をかけてしまってね。」
「なるほど、そうでしたか。」
くすくす笑う三波に、マスターも笑う。
迷惑どころか、結果的にはラッキーだったのだが。
「お待たせ致しました。」
すっ、と出されたのは頼んだウイスキーと、ナッツ。
定番だが、本沢の好きな組み合わせだ。
「本沢くんはバーボンは飲まないんですか?」
「バーボンも飲みますよ。俺はスコッチの方が好きですけど。」
「そうですか…ウイスキーは少しだけなら飲めるんですが…今日はやめておきます。また君に迷惑をかけては、本末転倒ですからね。」
今日の食事は前回の謝罪を兼ねているから、ということだろう。
その後も他愛ない話や、商学部の話をしたりしながら酒を飲み、21時を過ぎた頃だった。
「いらっしゃいませ。」
カラン、とお店のベルが鳴る。
「あぁ。いつもの頼むよ。」
常連らしき男が、カウンターの端に座った。
「俺も1度でいいから、ああやっていつものって言ってみたいですよ。」
「あはは、ぜひ。うちはいつでも待ってますよ。」
男から頼まれたのであろうものを作りながら、マスターが笑って答える。
「三波教授も憧れません?常連………」
顔を見て、驚いた。
青ざめ、固まっている。
「三波教授?」
「……三波?和希か?」
男の声に、三波は顔を強ばらせた。
(知り合いか…?)
「お知り合いですか?」
「ええ、まあ…前の、彼氏でね。」
元カレ。
その事実に驚いた。
三波に恋人がいたというのはまだわかる。もう三波もいい歳だ。だがそれがまさか、男とは。
そして、嬉しかった。
自分も、恋人になれる可能性はゼロではない。
だが、今はそれどころではなかった。
三波の顔色は、酷く悪かった。
「和希、家こっちの方じゃないよね?というか、和久(わく)と近くなかった?」
「その名を出すな。」
「え…」
思わず、声を出してしまった。
あまりに厳しい声だった。
"和久"が誰なのかは、もちろんわからなかった。
「和希、まだ怒ってるの?俺が和希を捨てて、和久と付き合ったの……」
聞き捨てならない。
捨てて、とはどういうことか。
その和久というやつも、一体なんなのだ。察するに、和久と三波は知り合いで、それなりに深い仲だったのではないだろうか。
「あなたのことを、私はまだ許していません。」
「でもいいでしょ?和久とはもう別れたんだし…」
「誤魔化しても無駄ですよ。緋村(ひむら)くんから全て聞いています。彼はどこです?」
灰色の瞳が、窓から差し込む月の光とともに、鋭く光っていた。
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