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episode.82 望みと現実
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〜本沢side〜
他に客がいなかったためか、マスターは本沢に一声かけて席を外した。
込み入った話で聞かれたくない可能性を考えたのだろう。
「彼を放って、よくもこんな所に来れましたね。」
「放ってなんかいないよ。優しくしてる。すごくね。」
「それを信じると思いますか?彼の居場所を言いなさい。」
「安全なところ。和希に教えてあげられるのはそれだけ。」
「史晃(ふみあき)!!」
こんなにも感情を顕にした三波を見るのは、初めてだった。
「教えてあげてもいいけど……和希も和久みたいに、いい子にしてくれる?」
史晃と呼ばれた男がそう言って笑う。
三波はわなわなと怒りに震えていた。
「三波教授。」
声をかけるが、完全に耳に入っていない。
「あー、でも新しい彼氏がいるのかな?」
史晃がそう言って、やっと三波はこちらを振り返った。
ハッとした顔をして、俯いてしまう。
「これ以上は無駄だね?俺は帰るよ。」
史晃はさっさと店を出ていき、それと同時にマスターが戻ってきた。
「マスター……」
「はい。」
「どこか、いいホテルはないですか?ゆっくり、話せるような。」
「この店に個室があります。そちらをお使いください。」
マスターに案内された個室に、三波が入っていく。
本沢も、それについて行った。
中はテーブルやソファ、ベッドまであって、寝泊まりできそうな部屋だった。
「……すみません。見苦しいところを見せて。」
そう言った三波は、顔はこちらに向けてくれない。
「いえ……」
その後が、続かなかった。
いつもの自分なら、こんな面倒事に巻き込まれた時点でその相手を見限る。
まともに交際相手の相談なんて乗ってこなかったし、どうでもよかった。
だから、こんなときになんと言っていいのかわからないのだ。
「男と付き合っていたのは、意外でしたか?」
「えっ、それは……」
「ふふ、顔に書いてありますよ。」
そんなにわかりやすい態度をとったつもりはなかったが、バレていたらしい。
「……失望、しましたか。こんな友人。」
「いえ……」
友人、だなんて思っていない。
その枠で収まる気など、毛頭ない。
だからこそ、こうして2人で出かけたのだ。
今言わなくて、どうする。
自分はそれに偏見がないばかりか、むしろ三波を好きなのだ、と。
「こんなときに言うのもなんですが……俺は、三波教授とそういう関係になりたいっていう下心ありありで近づいたんです。」
ネットのロマンチックな告白情報なんてクソくらえだ。
(俺は俺のやり方で、おとしてやる。)
「友人の枠に収まる気なんて、ないんですよ。」
望んでいるのは、さらにその先。
「ふっ……ははっ。」
「……え?」
俯いていた三波が、顔を上げる。
驚くほど冷たい目をしていた。口元だけは、孤を描いていた。
「君は、私の何を知っているんです?」
「え……」
「さっきの男となぜ揉めていたか、君にはわかりますか?」
わかるわけない。
「私の過去の恋人は?」
知るわけがない。
それがなんなんだ。
本沢が訳が分からずにいると、三波は無表情になった。
「君は私の何を見て、私の恋人になりたいと思っているんですか?」
本沢は、その質問に答えることはできなかった。
「君は、浅い。君は人を見る時、表面しか見ていないのだろうね。」
それに言い返すこともできなかった。
「君は私のことを何もわかっていないよ。今日はもう、帰りたまえ。」
三波はそう言うと、本沢に背を向けた。
こんなことは初めてだった。
振られることも、冷たい視線を向けられることも。
いや、今まで、そんなことを気にしたことがなかったのだ。
女から振られようが、女の彼氏から冷たい目を向けられようが、どうだってよかった。
だが、これは。
(……結構堪える、な。)
ことを急ぎ過ぎた。
それだけは、きちんと理解できた。
本沢は個室を出て、三波の分の代金まで払って、店をあとにした。
「本当の私は、君の隣に並ぶ資格なんて……」
個室に、小さな声と、一滴の雫が零れたことを、本沢は知らない。
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