アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
episode.83 奏多と本沢
-
〜奏多side〜
2月17日 土曜日
「おい、突然なんなの?次の約束は来週の木曜だったろ。」
「うるせえ。」
「んだよ、人が休みに来てやったってのにその態度。」
不機嫌を極めている本沢に呼び出された奏多。
朝、賢杜の部屋で目を覚ましてから慌てて用意をし、賢杜に車で送って貰った。
どうしても必要な資料を取りに行く用事があると言うから、そのついでに、であるが。
「で、今日はどの資料の整理?」
呼び出したからにはその仕事か、勉強だろうと思っていた奏多は、念の為持ってきておいた教材の入ったバッグを適当に置き、本沢の方を向く。
「俺の頭の整理だ。」
だから、この言葉を理解するのに、数秒必要だった。
「は?なんて?」
「今日のお前の仕事は、俺の頭の中の整理だ。2度も言わせるなこのアホ。」
いやいや。
理解できる方が謎だ。
1回聞いてわかったら天才だ。平凡な奏多はまだ、理解出来ていない。
「平凡な俺にもわかるように説明してくれる?」
「俺がわからないことをどうやってお前に説明するんだ?あぁ?!」
なんでこちらが怒られなければいけないのか。
奏多はため息をついた。
とりあえず分かるのは、昨日奏多たちと別れたあとに、本沢の身に、本沢をここまで不機嫌にさせるような何かがあったことだけだ。
「じゃあとりあえず何が起きたかだけでも説明しろよ。」
「振られた。嫌われた。なぜかわからない。」
「だいぶ簡潔だなおい。」
「なぜだ?何も知らないから恋人になって知ろうとするんだろ?何も知らないことの何が悪い?!」
奏多にキレられたって困る。
「恋人になる前にきちんと知って欲しいんじゃねえの…?それなりに距離を詰めたいとかさ。」
「距離は詰めたと思ってる。2人で出かけられるくらいに、だ。大学の他の誰かとあの人が出かけてるところなんて見たことないし、無いって言ってた。」
(相手は三波教授かよ……)
本沢は判断力が鈍っているのか、それともわざと分かるように言っているのか、とにかく相手はすぐにわかった。
「家にも行ったんだぞ?確かに告白のタイミングは悪かったと俺も思ってる。でもな、あそこまで言わなくてもいいだろ!!」
どこまでか分からないな、と思っていたら、昨日言われたらしいことをペラペラと喋り出した。
「てか、まずなんでいきなり告ろうとしたの?」
「……それは…」
本沢はぼんやりとしたことしか教えてくれなかったが、どうやら三波が元カレと揉めていたあとに告白したようだ。
奏多は恋人という存在は作ったことがないし、元カノという概念もない。
いうなれば全員が今カノで、揉めたことももちろんない。
だが、女の子が元カレと揉めていた場面には何度も出くわしているし、それを考えるに、本沢が告白したタイミングは必ずしも間違いとは言えない。
あんなやつ忘れて俺にしな的な告白は、女の子には割と人気である。
ところが三波はそれを突っぱねた、ということはだ。
答えは二択。
1つは、本沢のことを恋愛対象とは見ておらず、こんなタイミングでそんなことを言ってきた友人を軽蔑しているパターン。
君は私が君のことを恋愛対象に見てると思ってるのか?浅いな、という意味だ。
もう1つは、本沢が恋愛対象としてありで、かつ大事な友人もしくは片想いの相手だからこそ、突っぱねたパターン。
君が私の過去や全てを知ってもそばにいてくれるわけが無い、だから今のうちに冷たくしておく、ということだ。
三波教授とはまだ少ししか話したことがないが、奏多は後者の可能性が高いと思っている。
前者なら君と付き合う気は無い、と言ってきそうなものだ。
「やっぱあのタイミングがダメだった?それともあの元カレに未練あった的な……?」
話の内容から考えて、未練はない。
「なあ、なんでかお前はわかる?」
「お前のことが好きだからじゃねえの?それは恋人とか友人とか、まあそんなの抜きにしてさ、お前が気に入ってるからこそ、そういう冷たい言い方してんだろ?」
「一応、浅はかなこと言ってすいませんってLINE入れたのに未読無視だぜ?」
「それもわざとだよ多分。」
自分のことを知られるというのは、存外怖いものだ。
奏多にはよく分かる。
「てか気に入ってるなら俺に昔の話してくれてもいいじゃん?それもダメなの?」
難しいものなのだ。
知って欲しい。けれど、知られて嫌われたくない。
それが、本当に愛する人への思いなのだ。
知っている。
奏多は知らないふりをしているだけ。
愛とは複雑で、脆く、儚い。
「本沢にだけ、特別に教えてやろうか?」
「あ?」
「三波教授が考えてること。」
「わかんのかよ。」
「多分、だけどな。」
「教えろ、今すぐ。」
本沢には、遅かれ早かれ自分の本性がバレる気はしている。
だから今、少しだけ本沢に手を貸してやってもいい。
月乃が気に入っている三波教授のため。ひいては月乃も喜ぶことになるだろう。
そんな考えで、奏多は口を開いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
89 / 505