アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
episode.84 心の重り
-
〜奏多side〜
「きっとその元カレと、三波教授の間には複雑な過去があんだよ。」
「それで?」
「その過去を本沢に知られたら、本沢には失望されるかも、とか、友達やめられるかも、とか…嫌われるかも、とか。そう思ってんだよ。」
「……なんで。」
「だーかーら、複雑な過去だからだよ。」
さすがに三波の過去についてまでは、奏多にも理解しかねる。
「本沢は、何聞いたって嫌いになんかならねえって思ってるかもしれないけど、三波教授からしたら、本沢には知られたくないんだよ。だから、自分から話せない。」
「それなら話さなくたって……」
「絶対に、その過去がバレない保証ってないだろ。」
「そりゃ、そうだろ。」
「もし、本沢ともっともっと仲良くなってから、その過去を知られて、本沢に嫌われたら……そう考えたら怖くなるだろ。」
「だから、今のうちに突き放してるってのかよ。」
「多分、な。」
奏多なら、そうする。
深く踏み込まないうちに。
ありえないことだが、もしも誰かを好きになってしまったら、早くその人から離れる。
それは、自分のためにも、相手のためにも。
別れは早い方が、傷が浅くて済む。
「どうしたら、いいんだよ。」
「知らねーよ。そこまで俺にわかるか。」
この先は、奏多にはわからない。
奏多なら、何もしないで放っておいてほしい。
いっそ、見捨てて、遠くにいってほしい。
「まあ、思ってること伝えてみたらいいんじゃねえの?何を聞いたって変わらない、嫌いにならないって、伝えてみたら?」
「…………検討する。」
少しは本沢の頭の中が整理出来ただろうか。
「もういい、帰れ。」
「はいはい、本当に人遣い荒いな。」
本沢が真剣に悩んでいるので、この程度にとどめて部屋を出る。
(今どこ……っと。)
賢杜にLINEをしながら、構内を歩く。
すぐに返事が来て、車の中にいるらしかった。
門の外、すぐのところに賢杜の車が見える。
早く帰らないと、智夜や陽生が来てしまう。
けれど、奏多は立ち止まってしまった。
賢杜に抱かれてから、2ヶ月が経とうとしている。
この期間に、奏多の賢杜に対する気持ちや、立場は大幅に変わった。
前ほど嫌なやつだとも思わないし、むしろ面白いやつだと思い始めている自分がいる。
本沢と話をしたせいか、急にその心境の変化が怖くなった。
手遅れになる前に。
自分の気持ちにストッパーをかけておかないと。
今のうちに。
大きく深呼吸をして、また歩き出す。
「ごめん、お待たせ。」
「本沢教授の用は済んだのか?」
「おう。なぁ、ルーズリーフ買いたいんだけど……」
「コンビニでいいか。」
「うん。」
車が走り出す。
奏多は首元のチェーンにそっと触れた。
過去を思い出すように。
それを、忘れないように。
二度と誰も、愛さないように。
二度と誰にも、愛されないように。
チェーンを握る手に、力が入る。
(これでいい……)
心が落ち着いていく。
賢杜といて感じる心地良さも、イチへの恐怖も、本沢への興味と応援も、知夏や月乃、涼への愛着も、全て閉じ込めて、蓋をして。
過去という名の大きな重りをその上に乗せた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
90 / 505