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episode.92 変化
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〜賢杜side〜
智夜が奏多に膝枕してもらっていて、なんとなく対抗心を燃やして横になったところまでは、賢杜の記憶にもあった。
そのあとは適当に寝たフリをして起きるはずだったが、どうやら本気で眠ってしまったらしい。
なんとなく、もう一度してもらいたくなった。
思った以上に快眠できたから。
そう、それだけ。
「おい。」
「なに?」
「……膝枕。」
「はぁ?さっきやったばっかじゃん。てかベッドあるんだからそこで寝ればいいだろ。」
「いいからやれ。」
「なんでしてもらう側が命令口調なんだよ……本読み終わるまでな。」
奏多は、せっかく賢杜の部屋で寝るから、その間に賢杜が持っている本を読みたい、と言っていた。
今夜読む本はもう決まったらしい。
別に言ってくれれば貸すのに、なんて思ったが、それは黙っておく。
せっかく膝枕をする気になっているのだから、余計なことは言わないでおこうと思った。
「ん。」
ベッドに座り、本を手にした奏多が、ぽんぽん、と太ももを叩く。
賢杜はiPadを持ったまま、そこに寝転がった。
柔らかくもなければ、フィットするわけでもない。
先程快眠できたのがなぜなのか、さっぱりわからなかった。
ちらりと上を見上げれば、奏多は真剣に本を読んでいる。
「なんで途中からなんだ?」
「ん?あー、これ、前に少し読んだことあったから。まさか内田が持ってると思わなかったけど。」
いわゆるファンタジー小説で、作者が好きだったから買った本だった。
中身は面白かったが、賢杜は元々小説はあまり読まないので、1度読んだきりしまってあった。
「……読み終わったら持っていくか?」
「え、なんで?」
「俺はもうそれを読み返すことはない。作者が好きだから買っただけだし、お前が読むならお前がもらってくれた方がいい。」
「んー、いいや。」
「いらないのか?」
「うん。読みたくなったらお前に借りればいいし……あ、内田か俺が、この家を出ていくときには貰おうかな?」
「……好きにしろ。」
それきり会話はなくなって、賢杜は笹倉グループの資料を見返し、奏多は本を読む。
賢杜はだんだん眠くなってきて、うとうとし始めた。
一応最後まで資料を見よう、と目を開けるが、瞼が重たくなる。
ずっと同じ画面とにらめっこしていた時だった。
トン、トン、とお腹のあたりを優しく叩かれる。
こんなことをするのは、奏多しかいない。
奏多の方に目をやると、奏多は左手だけで本を読み進め、右手で賢杜をあやすように叩いていた。
「……おい、なんだ、これ…」
「んー?」
「おい…何してる。」
「んー…」
本に夢中なのか、話しかけてもあまり反応が良くない。
「おい、奏多。」
「…?なに?」
「これは、なんだ。」
「え?あ、あー……」
自分が何をしていたのか気がついたらしい。
「ごめん。」
スッと手をどけて、奏多はそういった。
賢杜が止めさせたのだが、いざなくなると少し寂しい気持ちになった。
「なんで急にこんなことし始めた?」
「いやぁ……つい。」
ヘラヘラと笑う奏多は、何かを誤魔化しているかのようだ。
「誰かに、したことがあるのか。」
そう聞いて、モヤッとした。
さっきから自分は変だ。
自分の行動で、自分が変な気持ちになっている。
寂しくなったり、モヤモヤしたり。
自分の行動ゆえなのに、矛盾している。
「したことあるわけないだろ?」
その答えに、満足した。
これは、嫉妬というやつなのだろうか。
「女の子に膝枕したことないもん。あーあ、それなのに内田に膝枕しちゃった。月乃か知夏姉さんならなぁ。もっと優しくして寝るまでずっとやっててあげるのに。」
そうだ、こいつはこういうやつだった。
自分は、何を期待していたのだろう。
「はい、もう今日読む分終わったからおしまい。寝る。」
「あぁ。」
賢杜が退くと、奏多はすぐに横になり、程なくして眠りについた。
賢杜は気がつくと、その奏多の頭を撫でていて、慌てて手を引っ込めた。
正直、賢杜自身にも、自分のことがよくわからなかった。
奏多に構いたくなったり、構って欲しくなったり。
今まで、誰にもそんなことは思わなかったのに、だ。
いなくなるやつは勝手にすればいいと思っていた。
寄ってくるやつも、好きにしていればいと思っていた。
確実に、自分は変わってきている。
それがいいことなのか、悪いことなのか、賢杜にはまだ、わからなかった。
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