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前編
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同級生の男に告白しようと思ったのは、3年目の夏の終わりだった。
大学受験への競争は、もうすでに始まってる。キャンパス訪問を幾つもこなし、レポートを出し、志望校を決めて進路を決める。
その前に――1度自分の気持ちを、ハッキリと位置付けておこうと思った。
「好きだ」って言いたい。受け入れて欲しい。けど同時に拒絶されんのが怖くもあって、ちょっと迷う。
それでも言おうって踏ん切りがついたのは、指定校推薦の校内申し込み期限が迫って来たからだ。何もしねぇ内に、このまま離れ離れになりたくねぇ。そう思うと、黙ってはいられなかった。
「話がある」つって学校帰りにソイツの家に押しかけて、2人きりになり、口を開く。
「お前さ、男同士の恋愛って、どう思う?」
告白の前フリとしての質問に、ソイツ、海野仁は頬を緩めながら、「いいと思うよっ」って答えた。
それ聞いた瞬間、「よっしゃー!」って心の中でコブシを振り上げちまったのは、仕方のねぇことだろう。
だって、男同士だし。常識で考えて、「有り得ない」とか「キモイ」とか、飾らねぇ言葉でバッサリ斬られる可能性の方が、デカいと思ってた。
それがこんな快諾だなんて、夢みてーだ。
「だよな、悪くねーよな」
ホッとしながら同意を促し、目の前の海野を見つめる。
ほんのり頬を赤く染めた、色白の顔も。緩んだ口元も。キラキラしてるデカい目も。好きだなぁ、としみじみ思う。
「オレ、好きなんだ」
そんな言葉が、素直に出た。
「オレもっ!」
直後、即答で返事をよこされて、テンションがぐわーっと上がる。
「マジ!?」
「うん、オレ、冗談でそんなこと言わないよっ」
興奮にますます顔を赤くして、こくこく何度もうなずく海野。
「井口君こそ。そんな素振り、今までなかったのに」
って。上目遣いで見つめてくんのが、すげー可愛い。
「当たり前じゃん。あんま大っぴらにできねーだろ?」
「うん、そうだね」
オレの言葉に、再びこくこくうなずいて、海野が長いまつ毛を伏せる。
「あんまこういうの、理解されないし。バレるの、怖いよね」
理解されねぇ、とか、バレが怖ぇ、とか、その気持ちにはオレもすげー心当たりがあって、「だよな」って深くうなずいた。
「分かる」
「わっ、井口君も分かる!?」
「分かるよ」
キッパリ同意すると、「ふああっ」って弾んだ声を上げて、海野がオレの手を握った。
ぎゅうっと両手で力を込めて握られて、結構痛い。けどそんな痛みも、感動の表れだと思うと愛おしい。
「だからさ、付き合ってくれねぇ?」
高まる思いのまま希望を告げると、「うんっ」って強くうなずかれた。
よっしゃあ、と心の中で万歳三唱しようとした時――。
「オレも、行きたいっ!」
そんなことを興奮したように言われて、あれ? ってなった。
――オレも? 行く?
「行きてぇって、どこへ?」
内心、首をかしげつつ訊くと、「どこでも」って。
これは……デートの誘い、か?
さっき、あんま大っぴらにできねぇっつってたのに、大胆だな。いや、けど、普通にしてりゃ男2人で歩いてたって友達同士にしか見えねーし、気にする方がおかしーのか。
「オレさ、ずっと憧れてたんだ。でも、勇気がなくて」
恥ずかしそうに、ぼそぼそと告げて来る海野は、やっぱ可愛い。憧れてたとか、そんなこと言われりゃこっちも口元が緩んでくるし、テンションも上がる。
「勇気がいるっつーのは分かるよ。オレだって、お前に打ち明けるの、すげー迷ったし」
「うわ、ホント? 分かる?」
「分かるよ」
さっきと似たような会話を繰り返し、デカい目を覗き込んでしっかりうなずく。
ふわああ、と盛り上がってる海野が可愛い。
「で、どこ行く?」
尋ねながら、目の前のふわふわ頭をポンと撫でる。
「ら、来週日曜の、戸袋! そ、それか、再来週、トレードセンター!」
「トレード……?」
戸袋はともかく、トレードセンターって。んなとこ行ってどうすんだ?
首をかしげながら「いーけど」って告げると、バッと首元に抱きつかれた。
「井口君、大好き!」
耳元で叫ばれて、鼓膜がキィンとなったけど、そんだけ喜んで貰えりゃ、オレの方も嬉しい。
興奮しまくってる熱く細い体に、オレの方からも手を伸ばし、ぎゅっと抱き締める。
可愛いな、キスしてーな。そう思いながら覗き込み、ニヤッと笑って顔を寄せると、「ふおおおっ!」って奇声を上げられた。
「いっ、井口君っ、ノリノリ過ぎるよっ!」
カーッと顔を赤くしながら、言葉を詰まらせる海野。
「おおお、オレ、経験値、低いんだからっ」
そんな自己申告も、誘ってるとしか思えなくて、ニヤニヤ笑いが加速する。
たらーっと海野が鼻血を出して、ロマンチックな雰囲気は一瞬で吹き飛んじまったけど、好感触だし、デートもさっそく決まったし、まあいいやと思った。
「いっぱい買おうねっ」
鼻にティッシュ詰めて、にへっと笑われて、首をかしげる。
「買う……?」
買い物デートってことか? イマイチ説明が足んなくて、意味不明でよく分かんねぇ。けど、そういうとこも含めて好きだと思うんだから、仕方ねぇ。
来週のデートが、楽しみだった。
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