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【前章】とある青年の自分語り
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私の名前は遵守(じゅんしゅん)。婪国の下級宦官として後宮で働いております。
婪国の帝は後宮に三千人の美女を住まわせております。それは、正妃から戯れに手をつけた娼婦まで様々です。当然ながら後宮は、美女が増えるに従って巨大化し、ソレに伴う雑務も多くなります。しかし、後宮で働く女官達の仕事は妃達の世話ですから、薪割りやら皿洗い等の雑務は行わないし、雑務の中には力仕事もあるので男手が必要です。
そこで、去勢を施した男子が後宮の侍従として重宝されるようになりました。最初は侵略先の異民族や重罪人を去勢する、宮刑と呼ばれる刑罰の一つでした。しかし、その仕事は王族と身近に触れ合う機会が多く、幼い皇子の遊び相手や養育係も勤めた為、皇子達と深い仲になり権力を握った者が出てきました。
仕えていた皇子が帝になりでもしたら、自分達より身分の高い貴族の役人すら這いつくばります。時には生母である妃や夫人以上に帝に慕われ、帝公認で生母暗殺を行った者もいたそうです。といっても宦官は所詮、奴隷と同列の日陰者。なるには科挙のような厳しい試験も、身分による差別もございません。下賤な者も高貴な者も、股間の物を切れば宦官になれます。そこには、最下層の身分であるからこその平等さがありました。
自ら股間の物を切る者が出てくるのに、あまり時間は掛かりませんでした。
そのような経緯がある為、男であることを止め、なおかつ奴隷に近い身分になるにも関わらず、志願する者は後を絶ちません。このように権力を夢見て自ら去勢を施し、後宮に入る事を自宮と申します。
去勢をすると、体に様々な変化が起こります。まず、声変わりが起こらず、背も伸びなくなります。筋肉は付きにくくなり、体は丸みを帯びていって尻も大きくなり、まるで女性のような体つきになります。
永遠の少年のような、男でも女でもない中性的な見た目を好む者は以外と多いらしく、そのような美しさを武器にして帝や皇子、妃や高級官僚を虜にする者は沢山います。昔には、私達を男でも女でもない第三の性と評した学者も居たそうです。
そんな宦官の中には、嘲笑られる存在がいます。
それは、【半なり】。
宦官の中には、幼児期に親から去勢を行われて自宮させられる者が多々おりますが、中には稀に男性機能が復活する者がおります。その症状は様々ですが、球だけを切除して陰茎を残した者に多いようで、背が伸び髭が生え、声が変わり、筋肉がつくなどの男性として成長してしまいます。時には射精や勃起まで行える者も存在します。
そうなった者は悲惨です。
男がいない宮中では、女性か女のような男しかおりません。そんな中、もし男に限りなく近い外見の者が妃の近くにいたら、間違いが起こってしまうかもしれません。よって、妃達に会わないように、半なり者は薪割りや洗濯などの重労働が課せられる最下級宦官にしかなれませんし、射精機能が回復した者は直ちに処刑されてしまいます。
また、宦官達からは男として成長してしまった者に対する妬みが混ざった嘲りの目で見られ、役人からは男性機能を失った男に対する嘲笑が向けられます。
人以下、宦官以下、女でも男でもない、なり損ない。そのような意味をこめて【半なり】と呼ばれます。
私は十つの時に去勢させられました。貧しい家の出だったので、粗悪な医師の手によって処置された時には、三ヶ月も高熱が続き、いつ死んでもおかしくない状態でした。貧乏子沢山を絵にかいたような我が家では、末っ子の私は死ねば口減らし、成功したら宦官にさせて儲けもの程度の存在でしたから、誰も手当てはしてもらえませんでした。
奇跡的に回復した私は、僅かな金銭と引き換えに後宮に自宮したのでごさいます。
後宮に入れば、権力を握る事が出来るかもしれない。親にはそう言い含められましたが、自宮した私には絶望しかありませんでした。後宮内は正に魔窟。騙し合い、傷つけ合い、敵を陥れ、凄惨な虐めが横行する酷い場所でした。
学もなく聡明でもなく、野望も持てない私は怖じ気つきました。暴力や罵詈雑言の矛先にならないように従順に過ごしました。それは、半なりになった時から更に酷くなりました。多少なりとも仲良くしていた者は手のひらを返したように私を見下し、寮から追い出されました。
最下級宦官用の寮は、ただ雨風を凌ぐ為のあばら屋がある程度。周りの宦官達に虐げられ、過酷な労働を課せられました。そうするうちに身長が更に伸び、体には逞しい筋肉がついてしまい、更に周りの人物達に馬鹿にされるようになりました。鞭で叩かれたり、裸にされて陰茎を指差して笑われたりしました。
逃げる事はできません。私達が後宮から出る時は、死んだ時か、病に倒れた時です。
時が過ぎるにつれて私の体には傷跡が幾つも刻まれました。いつしか、逆らわない、話さない、目立たない。これが私の信条となりました。
次々と同胞達が死んでいくなか、下層民出身の私は頑丈な体をしているらしく、少ない食糧と過酷な労働でも窶れませんでした。逆に研ぎ澄ますように鍛えられていき、病気も患う事はございませんでした。
宦官達は、そんな私を痛め付ける事を好みました。そんな時に、この厭わしい頑丈な体は役に立ち、昔ほど痛みを感じなくなりました。しかし、そんな事は嬉しくなかった。早く自由になりたかった。
嘲りの声を毎日聞きながら、体を傷つけられながら、早く死ぬことばかり考えていました。いつしか、私は牛蛙と呼ばれるようになりました。
そんなある日、私は宦官長に呼び出されました。怯えながら向かった私に、宦官長達が告げた事は新しく後宮に来た姫の世話をする事でした。
それが、私と痘痕姫様との出会いでした。
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