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【前章】とある青年の自分語り(痘痕姫)弐
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あの日から、姫様は少しだけお話になられるようになりました。私が食事を用意すると、「ありがとう」と仰ります。一度も礼など言われたことのない私は、初めて労いの御言葉を頂いた時には、不覚にも泣きそうになりました。
姫様が少しずつ心を許してくれている。その事を嬉しく思いながら過ごしていたある日、姫様の衣服を洗濯する為に廊下を歩いていた時、物置に引きずりこまれました。
そこで酷い事をされました。今までの嫌がらせや虐待は殴られたり嘲笑られたりする程度の物でしたが、あんな事をされるのは初めてでした。泣けば喜ばれ、汚い場所を舐めさせられ、抵抗したらキツく縛られて乗しかかられました。
全員が満足して、やっと解放された私は、そのまま呆然と歩き、何故か無意識に姫様の部屋を訪れておりました。頭の中では、最後に言われた台詞が何度も繰り返されておりました。
姫様は、私を見てとても驚かれておりました。当然です。その時の私の衣服は乱され、袍子(パオツ)は破れ、何時も結っている髪は掻き回されて宦官帽を被っていない私は亡者のようでした。破れた衣服から覗く肌には戯れに打ち付けられた鞭による、ドス黒い痣が見えておりました。
姫様は何も言わず、私を抱き締めました。姫様の柔らかい胸に顔が埋まり、甘い香りが致しました。姫様は、驚いている私の頭を撫でながら泣いていらっしゃりました。
「可哀想に……」
それは、初めて言われる言葉でした。
私の人生は馬鹿にされ、疎まれる事しかない人生でした。幼い頃から飯喰らいと言われ、家族に怒鳴られてばかりいました。母ですらも、生きているだけで家族に迷惑をかける、ろくでなしと私を罵って叩きました。幼い頃に死んだ祖母がいなければ、私は赤子の時に死んでいたと思います。
誰かに同情される。
それは、生きている事に誇りも何も持たず、自分が悪い存在と受け入れていた私にとっては驚天動地な出来事でした。憐れに思ってもらえる価値があるのかと驚きました。
姫様の涙が私の首筋にかかります。姫様の紫瞳から溢れる雫は、とても暖かくて体に染み込むようでした。
私は泣きました。
姫様に抱かれながら泣きました。
それから、姫様は私に優しくなりました。私に笑いかけ、私に話し掛け、私の話を聞いて下さいます。
姫様は、私が受けているのは暴力のみと思っておられるようでした。何かと私を気にかけ、私の事を心配してくれます。傷付いたら手当てしてくれて、優しい言葉をかけて頂きます。
私は初めて孤独ではないと感じました。
姫様はお優しいお方でした。
姫様は美しいお方でした。
姫様は私を罵らない。
姫様は私を叩かない。
姫様は私を必要としてくれる。
それを理解した瞬間、えもいわれぬ感覚がして自分の体を抱き締めました。宦官は歪んだ存在です。宦官は性器を切り取りますが性欲は残ります。睾丸だけを切り取り、陰茎が残っていたりしたとしても、射精できなければ性欲は発散できません。逆に弄れば弄る程、達せないので苦みます。
このようにして溜まりに溜まった性欲を発散させる為に、ある者は食に執着し、ある者は権力に執着し、ある者は金に執着します。私が姫様に執着するようになるには時間は掛かりませんでした。
私に優しくしてくれる姫様。
私を慰めてくれる姫様。
私のような下等な人間を必要としてくれる、美しい姫様。
姫様に対する想いは恋慕とは違います。それは例えるならば母への思慕。姫様に誉められたい。姫様に優しくされたい。姫様に悲しんで貰いたくない。
私の心の中にあった想いは、その程度です。
ですが、それだけで満足でした。自分の事はどうでも良い。姫様が苦しまず、姫様に誉められるだけで満足でした。
だから、私は姫様に黙って赴きます。
姫様に笑ってもらうため。
姫様が虐められないため。
姫様が殺されないため。
遠い異国から拐われた少女が、これ以上傷付かないため。私は後宮にいる女性達に体を差し出します。
後宮には三千を超える美女がおります。中には歳をとったり、帝に飽きられて後宮の片隅で燻る女性達もおります。そんな女性達にとって、私の体はとても魅力的なようでした。
姫様がお眠りになられた新月の晩。私は赴きます。嬌声が響き、甘い香りの焚かれた部屋の中、裸体に絡み付く柔らかくも白い体の群れ。芋虫のような白い指が体を這い回り、摘まみ、くすぐり、引っ掻きます。
ああ、姫様の体臭はあんなに良い匂いなのに、なんで彼女達の匂いは、こんなに甘ったるく生臭いのだろうか?
口の中に女の香りが広がる。
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