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【前章】落宮
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後宮の裏門。
そこは綺羅びやかな朱色の表門とは違い、一切の装飾が施されていない、生ゴミの湿った香りのする黒茶色の門だった。此処は基本的に使用人や、食糧等を搬入したり塵を外に出す為に使用される出入口であり、出入りの商人以外の姿は見る事はない。
しかし、今日は違った。
一般市民から破落戸風の者まで、沢山の人々が裏門の前にいた。集まっている者達は荷車や荷を持っておらず、とても業者には見えない。その身分や外見には統一感はないようだが、全員が男であり野卑た表情を浮かべている点が共通していた。
彼等が求めている物。それは美しい女性達だ。
今日は落宮が行われる日。帝に見捨てられた美しい女達がタダで手に入る日だ。
舌舐めずりする男達は、欲に濁った瞳で裏門を見る。落ちつきなく足踏みし、舌を舐め、下品な冗談を言い合い、中には待ちきれずに半裸になり、股間を膨らませる者もいる。
その様はまさに、獣(けだもの)の群れ。異様な熱気が、裏門の前に満ちていた。
そして、夕日が辺り一面を真っ赤に照らす夕暮れの時。
ゴゥーン
銅鑼が鳴らされて裏門の扉が開き、女が放り出される。女に群がる男達。
女を中心として、むさ苦しい男達の塊ができる。
柔らかな女は、男の壁に遮られて見えない。中で何が行われているか分からないが、服が破かれる音や男達の怒声と歓声、女の悲鳴で大体が予想できる。
最初の女に群がったのは、裏門にいた男達の一部である。一度の落宮では十人前後の女達が放出される。焦る必要はない。女はまだまだいる。
人買いや薬屋達が女を持ち帰るのは、男達の楽しみが終わった後だ。どんな事にも暗黙の了解がある物で、凌辱は裏門の前で行い、女を持ち帰るのは凌辱が終わった後と決まっている。人買い達は、女達が犯される様子を品定めし、誰がどの女を持ち帰るのか淡々と話し合っていた。
銅鑼が鳴らされる。
女が放り出され、男達が駆け寄る。
銅鑼が鳴らされる。
女が放り出され、男達が駆け寄る。
何度目かの銅鑼の後、扉が開いて小柄な人影が投げ出される。それは顔の半分に包帯を巻いた、豊かな亜麻色の髪と、白い肌を持つ異国の少女だった。
地面に蹲りながら怯える少女は、誰かを探すように周りを見回す。しかし、少女の紫色の瞳に映るのは、女性の体を貪る男の汚い姿、少女の耳に入るのは助けを呼ぶ女性の悲痛な叫び。
この国で唯一、少女に優しくしてくれた姿はない。
少女の顔が絶望に染まり、駆け寄ってきた男達の穢らわしい手が少女の体に触れようとした直前。
「姫様ー!」
一騎の騎馬が、混沌とした裏門前の通りを駆け抜ける。
黒毛の馬を操るのは、一人の男性だった。沢山の装飾が施された、鮮やかな青色の袖無しの旗袍(詰襟で両脇にスリットが入った、膝丈の衣服)を纏い、艶やかな黒髪を女のように伸ばして一つに結って沢山の簪を着けている。顔には赤い隈取りが妖しい化粧を施しているし、まるで芸人のようなド派手な男だ。
「退け!下朗が!」
切れ長の一重の瞳を吊り上げて雄叫びをあげている男性は、顔を大きく右斜めに横切る傷もあいまって、鬼すらも逃げる形相である。
彼は男達を撥ね飛ばすような勢いで、人がひしめく道を爆走していく。男達は馬に踏み潰されないように左右に逃げ、少女を掴もうとしていた男達も潮が引くように逃げていく。
馬上の男を見た少女の表情が変わる。
「遵守!」
男は手綱を握った右手だけで体を支えるようにして、体を馬から乗りだし、地面スレスレにまで手を伸ばす。泣きながら男に向かって両腕を広げる少女を、抱き合うようにして抱えあげた男は、馬を操り、素早くその場から離脱する。
「遵守!良かったぁ、良かったぁ」
「遅くなり申し訳ございません姫様」
「怖かった……怖かったの……」
「よく頑張られました姫様。さあ、約束通り向かいましょう。西の果ての貴女様の国へ」
「うん!」
この日、とある旅芸人の一座に、一人の異形の歌姫が加わった。顔が半分ただれ、半分は美しい異形の歌姫。歌姫の側には、人気の踊り子である青年が必ず寄り添っていた。
一座は旅する、西の果てへ。
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