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act1-04.変化の
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【side夏】
変わらなかった俺たちの関係は、これを境に壊れていったのかもしれない。
今振り返ればそう思う。
「いってえ……」
俺は片足を引きずるような形で歩いていた。
昼の休み時間を使って雪岡とバスケをしていたとき、俺のドジが発動して思いっきり足をひねったからだ。
雪岡には教室に戻ってもらい、俺は保健室へ向かっている。人気のない暗い廊下を進みながら、痛みを紛らわせるように頭を回す。といっても、回ったところで通常の人間の半分程度の成果しか得られない脳みそだけど。
浮かんできたのは、なぜか葵だった。今朝の表情、冷たい視線。昔はあんなに暖かかった葵の心からの笑顔を、もう何年も見ていない。
俺たちが今のような険悪な仲になった理由も思い出せない、そんな俺の心に痛いほど刻まれたあの陽だまりのような笑顔を思い出す。
「葵……」
葵が憎い。こんなにも憎い。嫌いで嫌いで、殴りたいほど恨めしいのはあいつへのやっかみでもなんでもなく、ただ過去の何かが俺にそうさせているような妙な感覚だ。
「いや、あんなやつのことはいいんだ。あんな奴は…」
そういえば、昼休みが始まってすぐに教室を出て行った葵の姿を、そのあと一度も見ていないような気がする。
まあいいか、と小さく呟いてようやくたどり着いた保健室の戸を開ける。比較的新しい校舎に似合わない音に顔をしかめつつ、部屋の中に入った。そして、俺はある一点に目を奪われ、思考や行動のすべてを一時停止した。
思わず言葉を呑んだ。
ドアからまっすぐの位置にある窓。開け放たれたそこから吹き込む風を浴びて立っていたのは、今の今まで俺の頭を支配していた、葵だった。
一瞬の出来事が、何分もの時間に感じられた。
なびいた黒の艶やかさ。外に広がる青い空の中にさし色のようにくっきりと存在しているようで、それでいてなぜかそのまま景色に溶けてしまいそうなほどに淡く存在している。
「綺麗」人はそう思うのだろうけど、俺にとっては「異質」だった。
「あ——…」
葵の名を口にしようとしたそのとき、葵が振り向いた。
そして、微笑を浮かべてその場に倒れた。
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