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*第四節*「D」
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*第四節*「ディ」
ディは細い。
背面から見ると女性と見間違ってしまう程に細く、柔らかい。
髪は腰に差し掛かる程。ふわりとした柔らかい毛質だ。
魔法使いの証である漆黒の髪もディのものは他のそれより少し薄く見える。漆黒、というより濃い灰色。そんな雰囲気だ。
眸は深緑。少し垂れ目で、眸も大きい為か色がよく解る。
脱衣した彼の体躯は色白で、周りが心配になるほど骨が浮いたもの。衣服の上からはあんなにも柔らかく見えるそれが服を一枚抜いただけでごつごつとした印象に変わる。
服装は軽装を好む。
肘丈のハーフカットされた麻の長袖に、だぼっとした黒いズボン。
そんな彼――ディは普段、『ダン』と呼ばれている。
その名を知っているのは二人しかいない。幼馴染みで戦友であるジィとヴィだ。
彼は二十四歳の若さで大魔法使いである『一文字』を貰った。それが『D』。
幼い頃、孤児だった彼は段々坂の中腹で帝国軍の兵士に捕まり、魔法使いの地獄と呼ばれた大牢獄に入った。
『段々坂』にいたから牢獄で『ダン』と呼ばれた。
彼は牢獄で酷い拷問を受けたが不思議とその頃の傷跡は残っていない。
「あ、あったあった」
ディは台所の床収納に隠した酒瓶を取り出してにんまりと笑った。
彼はなによりも酒が好きだ。過去にそれこそ死ぬくらい呑まされた所為で多少の量では酔わない身体となったが、酒の味は大好きだ。最早、お茶や水の感覚で酒を飲む。発酵酒特有の匂いも大好きだった。
「こんな所に隠しても駄目だよー」
ひひひ、と悪戯ぽくほくそ笑む。
ディの嗅覚は動物のそれに匹敵する。
魔法でいくらでも能力の補強が付けられてしまう。
今回も床収納に隠された酒を見事に見付けてしまった。飲み出すと際限なく飲むディが居る所為でアジトの酒事情は世知辛い。それどころか食費まで圧迫する始末だ。マイが必死に隠したがるのも仕方が無い。
「駄目ですよ、ディさん」
こそこそと台所を出て行こうとするディの背後にぬうっと人影が浮かぶ。
「あ、アルファくん?」
ディに珍しく珍しく冷や汗が浮かぶ。
「駄目ですよ」
深夜の台所、暗がりに浮かぶアルファの恨めしそうな金色がディを睨み付ける。
「いや、でもほら。今日はそんなに呑んでないし」
「駄目、ですよね?」
「……はい」
しゅんと肩を落としてディは腕に抱いた一升瓶をアルファに渡す。
その刹那に台所に明かりが点る。マイが住居スペースから現れたのだ。
「またかよ。ディ」
「今日は未遂だよ」
ディはとても残念そうな、悔しそうな複雑な顔で項垂れた。
「あはは、アンタはほんとアルファには弱いね。いい気味だ」
「もー、アルファくんに気配の消し方教えたのマイでしょー。やめてよ、心臓止まるかと思ったじゃん」
「コレに懲りたら勝手に酒を持ち出すのをやめるんだね」
一升瓶を片手にマイはご機嫌な様子で自室へと帰って行く。
悲しそうな顔で肩を落とすディをアルファは複雑な顔で見詰め、そして。
「あの」声を掛けた。
そしてアルファは自室である用具室にディを呼んだ。
組織のNo2であるディを誘うには些か汚れたそこでアルファは申し訳なさそうに苦笑する。
「あの、よかったらこれ。少ないですけど」
手渡したのは一升瓶の三分の一にも満たない小さな瓶。
「俺の給料じゃ、大きい瓶は変えないけどそれくらいなら買えるんで」
渡された瓶の蓋を開けるとそこからは確かに発酵酒の匂いがした。
「いつも魔法の修行してもらってるので、お礼です。……小さいですけど」
恥ずかしげにはにかんでアルファはもう一本の瓶を手渡す。
「給料でこれ買ったの?」
「あ、はい」
「僕の為に?」
「あ……はい」
「ふーん」
照れ臭そうに赤面するアルファを不思議そうに見てからディは瓶を一気に傾けた。
ディにとってそれは余りにも微々たる量で、物足りないにも程がある。寧ろ一口飲んでしまった為に余計に感じる枯渇感が喉元を掻き毟るようだ。渡された二本目を呑んでも枯渇感が消えることはやはりない。
飲んでも飲んでも満たされない喉の渇き。
それでも、なぜだか解らないが少しだけ気が紛れたような気分がした。
反抗もない少年の姿に感じる気持ち悪さには変わりない。でも少し、愛しく思えた。
可愛いな、と。
自分を慕う少年。だからだろうか、いや。それは関係ない。
何故だろう。何故だろう。
まだ未熟な少年だからだろうか。それとも『君』だからだろうか。
解らない。けど、解らなくていい気がする。
ディ――。名前をダンというこの男。
好奇心が旺盛でなんでも知りたがる。そして偏食家で酒豪。
感情が欠落している為に感受性が乏しく残虐である。
しかしその反面に自身の感情に疎く、それでいて愚鈍。精神面に著しい不安が残る。
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