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*第五節*「G」
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*第五節*「ジィ」
ジィは聡明である。
頭が良く、勘も良い。器用でいて飲み込みも早い。
ディに比べて体格は良い方だ。見た目からして逞しい男。
感情を素直に表に出して、好き嫌いをハッキリと言う。
漆黒の髪は肩に掛かる程度の長さで、普段はハーフアップの髪型をしている。
眸の色は赤色。鮮やかな赤だ。その色は女神の髪色と同じ色。女神信仰の強いこの世界では祝福の色とされている。
邪神の黒い髪と女神の赤い眸を持った、闇と光の子。
彼の体躯は逞しい。だが決して大きい訳ではない。野を駆ける為の軽い体躯、相手をねじ伏せる為の程よい筋肉。それは余分な脂肪や筋肉を削り必要な筋肉だけを蓄えたような理想的と言える肉体。
戦前で戦う為には非力ではいけない。魔法だけ使えればいい訳ではない。彼は云う。まさしく彼は戦う魔法使いだ。
彼の名前はジィ――普段は『ジン』と呼ばれている。
ディと同様にその名前を知るのは二人しか居ない。
彼が一文字を刻んだのは三十歳を越えた頃。聞き流していた言葉に生返事をした、という経緯だ。
幼い頃、帝国軍の追跡を振り切る為に両親に投げ捨てられた。
その後、魔法使いの地獄である大牢獄に入れられる。
そこでディと出会い、共に地獄の日々を過ごした。
彼の身体にはいくつかの傷が残っている。傷跡は消せるがわざと残しているという。
ジィは雑魚寝が好きだ。
何処でも、いつでも寝てしまえる。
先程まで大笑いしていた筈が次の瞬間には寝てしまえるくらい睡眠が好きだ。
食べるのも大好きだ。
だが寝ながら食べる事は出来ないのでいつも睡魔か食欲かの選択に忙しい。
そしてこの日もジィは床で寝ていた。だからだろう、寝室に向かうため居住区の廊下を歩いていたミリに踏まれてしまった。
「ちょ、またこんな所で寝てる!」
騒ぎ立てるミリにそれでも起きないジィ。
そう、踏まれても起きないのがジィである。
「もー、ジィさんってば!! こんなトコで寝たらまた踏まれるっスよ!」
こうなってはどんなに叩こうが揺さぶろうが起きないのだ。
困ったミリは仕方なく先に女子部屋で休んでいるマイに助けを求めた。
狭いアジトには個室はなく、男子部屋、女子部屋、団長部屋とプラス用具室がぎゅうぎゅう詰めに造られている。
女子部屋で寝入る寸前だったマイは不機嫌に廊下で仁王立ち。
二人しかいない女子の中でマイとミリは師弟であり親子であり、姉妹でもある。なにか困った事があれば必ずマイに助けを求めてしまうのがミリだ。そしてマイもミリの頼みは断れない。
「この馬鹿は毎日毎日飽きもせず廊下で寝て……」
憎々しく擂り潰すような声で唸るマイを女子部屋から遠巻きに見詰めるミリは「姉さん、ほどほどで!」とマイを落ち着ける。
が、それも虚しくマイの丸太のような筋肉質な腕は地面が割れる程の力でジィの顔面に拳を突き立てた。
聞いた事もないような重低音が辺りを揺るがす。
その衝撃を受けてやっとジィは目を覚ました。
「やっと起きたか。この馬鹿」
「あれ、マイ。えーと、俺の肉は?」
「なに暢気に夢見てたんだよ」
「ていうか、あれ。なんか鼻血出た」
あはは、と暢気に笑うジィに「普通は死んでるっス」と控えめなミリの突っ込みが入る。
上半身をのそりと起こしてジィはぼんやりと辺りを不思議そうにうかがう。
なんだい、変な奴だね。マイは擽ったそうにジィを覗き込んだ。
「打ち所悪かったのかい」
「あー、いや。そういう訳じゃ。うーん。可笑しいな」
「ん?」
「ここって、こんなに狭かったっけ?」
「は? 広さは造った時と変わらないよ」
「んー、そうか。そうだよなー」
そうだよな、と言いながら納得いかないような顔で首を傾いだジィはさっと立ち上がると「寝る!」と背伸びをする。
団長室に向かうジィを複雑な顔で眺めていたマイが声を掛ける。
「ジィ。アンタ、食べたいものあるかい」
「肉、かな」
「解った。ちょっと待ってな」
「え、今から作ってくれるの? 珍しい」
「いやならいいんだよ」
「嘘! 嘘です! 食べます!」
キッチンに向かうマイの後を子供のようについて行くジィは嬉しそうに笑う。
マイの手料理を頬張るジィは幸せそうにがっついた。誰にも取られないのに、まるで取られまいと急く子供のようにがつがつとマイの作った豚丼を掻き込んでゆく。
「ちょっとはゆっくり食べなよ」
「んー」
ジィは食べる事が大好きだ。どんなに食べても満腹を感じないような顔でなんでも食べてしまう。だけど美味しいものを食べた時のジィはとても、とても幸せそうだ。それはきっと、感じない満腹が別の所で満たされたから。
もうジィはアジトを狭く感じなかった。
ジィ――、名前をジンという。
子供のように純粋で、それでいて素直な男。大食漢でいて、よく眠る。
感情表現が豊かで好き嫌いをハッキリと言わないと気が済まない。
だが反面に自身の感情に疎く、それでいて愚鈍。精神面に著しい不安が残る。
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