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日記の始まり
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その日のスタートはこうだった。
家の呼び鈴が鳴り、貴仁だと解っていた私は
そのつもりでドアを開けた
そこまでは確かに間違いでは無かったが、
迎え入れた貴仁の後ろに、シャンと姿勢良く立つ男性を瞳に写して私は
何故だか彼を「貴仁の友人か?」や「婚約者の弟さん?」だとかと言う認識をする事なく
すぐに「…まさかこうくるとは。」と理解したのだ
それほど、彼、龍希くんは
不安も緊張も大いに感じている表情で、自分の前に立つ貴仁の事を、
雄々しく守るように、それでいて、後ろで寄り添い引き立てる役割を担うように、見つめて立っているように思えたのだ。
「はじめまして。驚かせたかと思いますが、貴仁さんとお付き合いしています。日尾龍希です。」
龍希くんの最初の挨拶はこのようなもので
その後も臆する事なく、真っ直ぐと私や妻を見つめて会話をした。
今、龍希くんの性格などを含む色々を知れてから思い返せば
この日に彼が自信のない態度や、謝罪を意味する言葉を一切口にしていない事を凄いなと思い
同時に、それは、その日性別など関係無いように、さも当たり前の相手を紹介するようだった貴仁の行動への敬意と、感謝の念だったのだろうと思う
それを思う度に改めて2人の絆の強さを知り
その都度私は妻や子供へ、愛する言葉を慌てたように伝えてみるのだ。情けなくも、可笑しな話だ
それでも、私はあまりに唐突で、あまりに思っていたのと違うその展開に
最初、こう口にしてしまった
「……貴仁、なんだこれは?………まさか、相手は男だとでも言うのか?………悪いが歓迎は出来ないな。頼むよ貴仁、こんな理解しかねる事を言葉にしてくれるな………」
ため息混じりのそのそれは、酷い言葉だったと思う。
後に貴仁は、龍希くんがその言葉を受けてなお、気持ちを強く持てていた理由を
「恐らくは前に純也達へカムアウトしているからだろう。」と言っていた。
経験したという事と、何より、知ってくれている人の存在の偉大さとは、本当にあるものなのだ。
「なぁ兄貴、理解をしかねる事だと思っているから、こうして言葉にしているんだ。それに、兄貴は時間は必要でも必ず俺達を笑顔で受け入れると思ってるよ。違う?」
恐らくは貴仁の作戦勝ちだったような、その貴仁の言葉に、私はしばらく葛藤をしたものの
二人からじっくりしっかり、本当の言葉を聞き出していく事にした
貴仁の本気も、龍希くんの本当も知ることができた
恐らく最初はかなり冷たい表情であっただろう俺を相手に、2人は全てを素直に真っ直ぐ、伝えてくれた
私が聞く耳を持ってくれたからだよと2人は言うが、それは、2人がそうさせる程の姿勢で挑んでくれたからだ。
何より、親バカかもしれないが、
娘の愛子が龍希くんの事を大層気に入り、龍希くんも、それはそれは驚くほど手慣れた、愛に満ちた笑顔で彼女と接してくれたからだ。
「施設に居た頃は、年少組を年長組が面倒見るのが決まりだったから。」
と彼は言い、それすら私は新鮮に感じ、気づけば翌日彼らを送り出す頃には、
すっかり龍希くんの事を気に入ってしまっていた。
そして、今では妻の良子はまるで仲の良い友人や、たまに息子を思うように、
私は何の戸惑いも無く、弟の婚約者を思うように
彼、龍希くんの事を大切に感じている。
だからこそ、
今から私は、とある一定の期間に紡がれた2人の日記を、ここへ紹介していきたいと
思っている。
これは、男だ女だ、別人種だ、などではない。
人が、愛する相手と交わすことのできる大切な絆の物語となり得るだろう。
次に紹介する1日目の日記は
2人が、1度目の両親へカムアウトを行い、
「今すぐには到底受け入れられない。」と拒絶され、
ならばと日を改め、2度目の説得へ赴き
今まで聞き続けていた寡黙な父が何かを言おうとしたその瞬間を慌てて奪うように
母から
「解らなくはないわ、貴方達が本当に愛し合っているならばかまわないわと言ってはあげたいの。
でも、あれよね、こんな関係を告白しなくちゃならないのなら、龍希くん、もう少しだけでもこの子を諦める日々を頑張れたんじゃないかしらとも、思ってしまうわ」
と、焦りと動揺から口をついた、あまり深くは考えていないその言葉が発せられた、その瞬間から恐らくは始まったであろう
龍希くんの心の崩壊と
貴仁がその崩壊を必死に繋ぎ止める日々をスタートさせた日記である。
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