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心の失速
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それは、
龍希君が寝てから1時間もたたない頃だったかと思う
愛子は庭で猫のもんたと遊び、
私と良子は、居間でそれを見ながら貴仁と話をしていた。
そして、事は起こった
私や良子には言われてみれば聞こえたかもしれない。
程度の声だった。
けれども、貴仁は「龍…」と小さく呟くと慌てて居間を出て龍希くんの眠る部屋へと駆け付けたのだ。
龍希君の声が聞こえたようだった
少しの間をおき私は良子と供にそちらへ行くと、今度は自分達にもハッキリと龍希くんの声が聞こえた
そして、その龍希くんの声が、明らかにいつもの彼の愛らしいその声色と違っていた事に驚きを露にせずにいられなかった。
彼は、貴仁の名を荒々しく叫ぶように呼びつけては、何処へ行っていたのか?何故ここにいなかったか?と怒鳴り声に近いそれで発し、子供の言うような言葉の悪口で貴仁を攻め立てていた。
【イライラしているみたいで、よく怒鳴ったり叫んだりするんだ……】
と、貴仁が言っていた事を思い出し、これがそれかと思い知る。
私は自分の弟が攻められている事をショックに思うより先に、
龍希君がそんな言葉で貴仁を攻めてしまっている現実にショックを感じた。
それほど、大切な恋人を怒鳴る彼の声は何とも言えず痛々しく聞こえたのだ。
辛そうで、哀しそうで、まるで、怒鳴りながら
ごめんごめんと泣いて謝るようで。
良子は、現状を把握するやいなや、ショックに動きを止める事もせず、すぐにその場を離れ居間へ戻った。
きっと、娘の愛子がこちらへ来る事が無いように……だろう。
母は常に誰よりも先に子の事を考えるのだなと、こんな時なのに、私は我妻を改めて賛辞していた。
無論、これを読み、現実を教える事は必要だ。と言う人が居るかもしれない。
それは確かで、私も、何もかも隠す教育をするつもりはない。
けれども、その現場を見せなくとも良い場合も有るのではないか?
これが100%正しい行動とは言わないが、
我が家の教育として、彼女は子供へ今この場面を見せない事を選択した。
そして、私の目の前では、それを正解だと言わんばかりの事が起きようとしていた。
龍希君がそれこそ感情のまま、勢いで振り下ろしたであろうその手が貴仁の頬を打った。
自分のその行動に驚いたような龍希くんの表情が、
それを受けても何て事はないと言う素振りの、
微笑みすら浮かべる貴仁を睨み付け
さらに突飛ばそうと手を出した。
「……っ!」
ここまでずっと、自分が居ることを、気付かせないように隠れていたが、
私はとっさにそこへ出て行き、突き飛ばされバランスを崩し倒れこんだ貴仁を受け止めながら、ふと見てしまった
それは、龍希くんの表情。
その、あまりに絶望にも近い表情を
今でもこの脳裏から剥がすことが出来ずにいる
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