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心の失速
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その表情を見れていた時間はほんの数秒だった
それどころか、私はその場に姿を見せられていた時間すら、1分と無かったように思う
貴仁を受け止め、大丈夫か?居間に居るからな。とだけその耳元に囁くと
もう一度龍希君の顔を見ることもなく、
その場を後にした
振り返る勇気等無い
話しかける言葉すら出てこない
それどころか、今見た現実を受け止め冷静でいられる事ですら何とかギリギリの感情であった
居間へ戻ると愛子は紙いっぱいに、猫のもんたを描いて遊び
良子は少し離れた所からそれを見つめていたが、私に気付くと彼女は愛子には聞こえぬ小さな声で、大丈夫かと訪ねてきた
私は、ああ。と答えたものの、では大丈夫なのかと言えばそれは否であり、その事をほのめかす内容の話を、良子へともらした。
「……俺は、あいつに何を偉そうに、泣くな、もっとしっかりしろ。だなんて、言えたんだろうな。所詮は口先だけの綺麗事を言ってしまったかもしれないよ
あいつはさ、今、微笑んでいたよ。龍希君へ対して
冷静で、笑顔だったんだ。
俺はさ、もしも、今、お前や愛子が笑顔も忘れて鬱ぎこんてしまったのなら、何故だ、どうしてだと、泣いてすがる気がするのに……」
描けたー!と、とびきりの笑顔で自分の描いたもんたの絵を掲げ、そのもんたを追いかけまわす愛子を眺めて
俺は心底情けのない顔をしていただろうと思う
男は想定外の現実には決まって意気地無しだと思うのは、俺だけだろうか。
「……そのままでいいわよ。」
意気地無しのその夫へ良子はどこか私と交際を始めた頃のような、若い恋人へ諭すような口調で
「貴方はそのままいなさいよ、どんなに偉そうでも、どんなに見栄をはってもかまわないから、
貴方は貴仁さんの前で必ず兄でいなきゃダメだわ
妻と娘を養う一家の大黒柱も担う兄として、そこに居なくてはダメ。
二人のあの形の愛を見守ると決めた私達の為にも、貴仁さんの為にも。よ?わかった?」
良子はこちらをチラリとだけ見て、微笑むと
そのまま愛子の元へ行く
その後ろ姿と、自分を大黒柱だと頼ってくれるその、守るべき二人の様子を眺め
あぁ、女と言うのは、こと現実を受け止める時に、なんて頼りになるのかと
クックと喉を鳴らして笑った。
私は、妻と子を持つ貴仁の兄だ
貴仁は、同じ男性と生涯を誓った私の弟だ
良子は私の頼れる最愛の妻で、
愛子は生涯守り通す愛しい我が子だ
そして、
龍希君は、弟の最愛の人であり、
これから我々の家族となるべき男性だ。
全て愛すべき感情の相手
愛こそが共通だ
そう言う事だ。
そう言う事なのだ。
この日、結局龍希君は夜中になるまで起きる事は無かったが、
翌朝、彼は何事も無かったように、
ごく普通の笑顔だった。それが、何とも嬉しくも複雑な心境にさせてくれたのだったが、
この2日で私は彼ら2人の愛の形をさらに美しく、愛しく思える事になったのは確かである。
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