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そして、後退
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泣いて欲しい、泣いておくべきだ
何故なら恐らくは…だが、今、この時に涙をこぼしておくのと、そうでないのとでは、
この先、未来にこの時の事を思い出す時の負荷が違うと思ったからだ。
泣けていたならば、きっと「自分はあの時泣いた」という記憶が、自信のようになり、
この時の出来事を、悩み葛藤し、精一杯乗り越えた過去として思い起こさせてくれるだろう。
人の気持ちとは悲しみを得たとき、感情を露にする場所を求めるものだ。
ここで泣いておいたならば、それを出来たという記憶が、貴仁の気持ちを救うタイミングが必ずやってくる。
逆に、泣いておかなかったのならば、
この先、何かが有るごとに貴仁はこの事を戒めのように思い出さなければならなくなるだろう。
涙すら溢さず逃げた記憶として……と、そこまで考え私は先程、この弟が自ら
「逃げてきたんだ」
と、伝えてきた事を思い出し、なるほどなとため息をついた。
こいつはもう、そのつもりでここに居て、
そのつもりで涙を堪えている
未来の自分へ思い付く限りの十字架を背負わせるつもりで。
その姿に私はぐっと唇を噛んだ
頭には「ちくしょう」と言う言葉
悔しかったからだ。
何に対してか?それは数種類有りそうだったが、
全て漠然としていてよく解らなかった。
しかし、敢えて言葉にするならば………
これは、批難されて然るべき言葉だと思ってはいるが……
そう、敢えて言葉にするならば、
自分や貴仁が、幼い頃から至極幸福に、愛を沢山知って生きて来た事に対しての「ちくしょう」が入っている事を私は認識していた。
決して、不幸でありたかった。などと言うつもりはない。
勿論そうではないが、
悲しみや哀しみの分、人があらゆる面で強くなるのだとしたならば
幸福を当たり前で生きて来た自分を少し呪ったのは確かだ。
この文面に、気分を害した人が居るであろうとしたならば、心から申し訳ない。
けれど、どうしても、そう思えて仕方ないくらいには、1つどうしても超えられぬ壁のようなものを知っているのだ。
それは、きっと、貴仁も同じはずだ。
同じであるから、今、この選択をしたのだろう
どうしていいか解らない中での、安易かもしれないが思い付く限りの、自分への戒めだ
「……わかったよ。」
と、一言だけ告げると私はしばしまた無言の空間の中で、龍希くんの日記を読み直す
少しの笑顔が想像出来る日記、そうでない日記。
あの時、こんな気持ちで……と、今初めて知れた事、
その全てが、再び私に泣きたいのかどうしたいのかも解らない、うねりのような感情を与えた。
そして私は再び頭に「ちくしょう」と繰り返すと、
「……お前、今家には龍希くん1人か?」
と訪ね、貴仁の、「けんさんに連絡をしたから今頃居てくれてる筈だ」と言う言葉に
では、けんさんに龍希くんの今の状況を確認して、もし大丈夫そうならば、数日家を空けたいと伝えろ。
と、提案をした。
その数日はここで過ごせばいい。少し龍希くんの側を離れろ。そう言う提案だった。
「……正直、家では龍希くんを気にして仕事も思うように進まずにいるだろう?」
その言葉に貴仁はしばらく決めかねているようだったが、
1つ頷くと、けんさんに連絡をし、
龍希くんとも話をつけていた。
こうして貴仁はしばらく、私の家を中心に仕事をし、必要な時だけ戻るスタイルで生活する事となった。
この提案は、良かったと思っている。
無論、その事に自信が有るわけでは無いが、正解が無いものの中で、この時の自分達には………何より貴仁にとっては……良い事となったはずだ。
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