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そして、後退
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そうそう、その日の夜、少し面白い事があった。
それを話しておこうと思う
貴仁が泊まると知り
愛子は当然、「……龍お兄ちゃんは?!」と尋ね、
それに対し、私も妻も仕事や適当な理由を述べて、来れないのだよ。と答えたのだが、
愛子も、以前貴仁の家へ行った時の事もあり、
子供なりに何か察しては居るのだろう。
突然、貴仁を見上げると
「龍お兄ちゃんは、お病気?お怪我?」
と尋ねたのだ。
少し戸惑う私達だったが、
意外と貴仁がすぐに行動に出た。しゃがみこみ、愛子の目線に合わせると、うん。と頷き
「……ちょっとだけね……こころって場所を怪我したんだ。で、そのあとに、おじちゃんがね、失敗して龍お兄ちゃんのこころの怪我をひどくしちゃったから、来れないんだ。ごめんね。」
などと答えた。
まるで自分にすら話しかけるように聞こえ
子供は確かにたまに、写し鏡のようになる時があるよな。と感じた。
この話の興味深いところはここからで、
貴仁からそんな情報を聞いた愛子は何か思い付いたように走って自分のお気に入りの小さな手提げ鞄を持って来ると、中を覗いてうーん!としばらく悩み
うん!と頷いて中から絆創膏を取り出した
それは、アニメのキャラクターや、ハートや星などの絵が描いてある可愛らしいそれだった。
そこで私は、はたと気付いた。
皆様もお気付きかもしれないが、そう、これは先ほど私が誤って愛子にぶつかってしまった時に、
痛いよー!と泣き出した愛子に妻が与えたものと同じだった。
もう大丈夫だよ。
の呪文と一緒に与えて貰える魔法の道具
愛子はお気に入りのいくつかを、貼らずに大事に取って置いたのだろう。
そんな魔法の絆創膏コレクションなのかもしれない。これは。
「龍お兄ちゃんにね、これあげて!持ってるとお怪我すぐに治るの!…で、ね?大丈夫だよって、言ってあげるの!あのね、あのね、すぐ治っちゃう呪文よ!」
そう、愛子に言われた貴仁は、少しだけ瞳が潤んだようだった。
口をぐっと一文字にすると何とか作ることが出来たような、ギリギリの笑顔で、
「うん、大事なモノなんだよね?なのに、ありがとう。きっと、………きっと、すぐに治るね。ありがとう。ありがとう。」
そう言って、ほんの少しだけ、
貴仁は泣いたように見えた。
泣かないと決め、私の言葉にもそれを守った貴仁は、
小学校に上がりたての小さな少女の言葉に、
ほんの少しだけ涙した
こうして、貴仁の生活拠点を少しだけ変えた日々が始まった
私も、恐らくは貴仁本人も、何日でもいいと思っていた。
ほんの2日、3日でも、一週間でも。
なんなら、数時間だって良かった。
少しだけ日々の内容を変える事が大切だっただけなのだ。
仕事に集中する、「いつもの自分」を思い出すだけでも良かったのだ。
何が正解かなど解らないのだから
思い付く事は何だってすれば良いのだ
勿論、私は仕事で殆どの時間を家で過ごさないので、
主に貴仁と顔を合わすのは妻の良子、
その次に娘の愛子だった。
けれど、今の貴仁にとって、子供と対話する日々はとても新鮮で良いリフレッシュとなったようだ
毎日をここで過ごした訳では無く、たまに帰る時もあったが、
あくまでも拠点はこの家。としたこの生活は、
何だかんだで1週間になろうとしていた。
その間も貴仁は日記を付けていたようで、
ほんの2~3日分だが
ここで、紹介しておこうと思う。
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