アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
朝の音
-
「……それ、どんな意味の……怒ってる?」
彼は涙こそまだ流してはいないものの
既に泣いていたのだろうと思う
俺は流石に先程までの落ち着きのままとはいかず、その様子に少し驚きはしたが、
平静を保ったままで怒るわけでもなく、
けれども決して『全く怒っていない訳ではない』といった口調で続けた
「もう二度と、あんなマネしないでくれよ。……って、意味。」
俺と龍希の瞳と瞳が合う
瞬きすらしなかったのでは?と思うくらいには意識をして眼を反らさずにいた。
数秒を得て、次第に龍希の瞳は涙でいっぱいになり、
口元は何かを堪えるように、ぎゅっと一文字に結ばれる。
俺はついていた頬杖をやめると、ゆっくりと立ち上がり
怒ってる風ではなくとも、微笑むことはなく
「もしも、おまえが居なくなったらって、俺がどのぐらい恐かったか、解ってるのか?……って意味。」
瞳は反らさず、テーブルから離れ龍希の側へと移動する。
それに対して少し慌てたように、龍希は手にしたケトルをガタン!と置いた。
ぎゅっと結ばれた口元は既に耐えるのを諦めてきていた。
「……龍、おまえが居なくなったら息も出来なくなる人間が、ここに居るんだぞ。」
ケトルを置いた龍希の手を握れる距離にまで入り込むと、反らされずにいた彼の瞳からいよいよ涙が溢れた、そのタイミング
俺は龍希を強く強く抱き締めた
そして、「恐かったよ。」と耳元で小さく小さく呟いた
背に回した腕に力を込めると自分も泣けてきたのを覚えていて、それを思い出した今も奥歯が痛むのではと錯覚するほどに、
俺は、歯を食いしばってそれを耐えたと思う。
龍希の温度を感じながら
久しぶりに拒否されずに抱きしめる事が出来ている事に高揚した
そして、そのままキスを求めてみたならば、それもまた、受け入れて貰えた。
唇が一瞬触れるだけのそれだったが、
涙に濡れた龍希の顔を忘れられない。
そのまま、再び額にも軽いキスをした。
先日まで拒否されていた事を思えば
このタイミングでどうなのかと思われるかもしれないが、今の自分の気持ちや感情を言葉にしようとしたならば、何も適したものが頭に浮かばず
思い付く手段は、キスをする事だったのだ。
言葉とは難しい。
あらゆる種類の、あらゆる思考を伝えられる言葉を
知っておけたならば、と、いつも思うのだ。
この男をパートナーとしたあの日から、幾度も。
2度3度と繰り返された軽いキスの後
再び強く抱き締めると、龍希へとこんな話をした。
「……ねぇ、龍、俺はさ、言葉を使う仕事をしていて、ずっと、それなりに、言葉に自信を持って生きてきたよ……お前を、愛するまではね。」
きっと龍希は、何故?という顔をしたと思う
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 35