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『忘れていた恋の話。』
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親しい友人から結婚式の招待状が届いた。
そうか…自分ももうそんな歳なんだなあ…なんて思いながら家に帰りクローゼットを開けてスーツを探す。
「これはいつのだ…リクルートのか?さすがにこんなのは無理だろ…一体いくつなんだよって話だよな…」
ぼやきながらあさってみたところで所謂“ちゃんとしたスーツ”なんてものは出てきやしない。
そんなん当たり前だよな…就職してから新調してなけりゃあるはずがない。
「やべーな…出来婚ヤローだから式までの間が全然ねぇじゃんか!」
まさかの出来婚なくせに嫁さんの腹が出切らないうちに早急に式を挙げるとか。
そっちも急ぎなんだろうがそれに合わせるこっちの身にもなれっての。
仕事が忙しくてロクに休みも取れねーんだからスーツなんて買いにいく暇ねーのよ。
更にぼやきながら着ているツナギの前ファスナーを全開にして脱ぎ捨てる。
確か営業希望で入ったはずなのに気が付けばこんな格好で毎日毎日車の下に潜っての仕事。
汗まみれだわ、汚れまみれだわ、油まみれだわ…と、お世辞にもいいもんだとは言えない。
だがまあ車好きだしいいかなーとか思って勉強してからアッという間に一人前。
更に気付けば小さなショップではあるが現場の責任者になっているという自分の才能にホレボレしちまう。
…誰に向けての“自分自慢”なんだか。
取りあえず今一番必要なのはスーツを買いにいく時間の捻出。
明日の車検、修理等々の予定を思い出しながら俺は風呂に入るべくそのドアを押し開けた。
バタン
閉まる音を聞きながらシャワーのコックに手を伸ばす…と。
ドアの向こうから甲高い電子音が聞こえてきた。
「マジかよ…このタイミングでか!」
この真冬の時期、帰ってきたばかりのまだ暖まっていない部屋に全裸で出る勇気はない。
だが…
もしかしたら出来婚ヤローからの招待状を受け取った仲間からの電話かもしれんしな…。
少し考えてからタオルを腰に巻き付け風呂場を出る。
鳴り続けている宅電に手を伸ばしながらソファにかけたままのパーカーを引き上げた。
「はいもしもしー…」
『あ、かかった!』
袖を通そうとした手が止まる。
『あれ?…もしもし??』
耳に響くのは懐かしい柔らかい声。
忘れていたはずなのに…第一声でわかってしまう辺り俺もイタイ。
『もしも…』
「おう、悪い!」
なるべく軽く。
なるべく普通に。
自分に言い聞かせながら言葉を紡ぐ。
…これがすでに普通じゃねーわな。
『よかったーいないかと思ったよ。』
「ああ悪い。丁度風呂に入るところだったんでな。」
『マジで!?』
コロコロと笑う声が愛しい。
目を閉じてこの声の主を思い描く。
男のくせにえらく細く小柄で髪もサラサラ。
デカい黒い瞳と男のくせにやたらと可愛らしい顔立ち。
男のくせに声も低くなり切ってなくて…と、“男のくせに”を連発するが。
『もしもし?聞いてるのか光志(こうじ)?』
「聞いてるよ明佳(はるか)。」
俺は学生時代この男、中野明佳に恋をしていた。
“男のくせに”。
『なあ加藤から結婚式の招待状きた?』
「ああ、出来婚だとな。あいつらしいわ。」
電話口で笑い合ってるだけでもやたらと心臓がバクバクする。
苦しい、が苦いものではなく“胸がイッパイ”というやつ。
…くそ…
なんだよこの乙女キャラはよ。
苦笑いをする俺の耳には明佳の楽しそうな声が響き続ける。
好きで好きで…
どうしようもなく好きだった。
どこがどうとかじゃなく本当に“全部”が好きだった。
頭が弱いくせに変に鋭いところがイイ。
タラタラしてるくせになにかの大事にはいち早く駆け付け先頭で戦う勇ましさがイイ。
細っこいくせに人の弁当から必ずおかずを一つ奪う食い意地がイイ。
なんつーか…
一緒にいて飽きないんだよな。
一分一秒変わる表情も、次になにをやらかすかわからない大胆さも全て。
だから“本当に全部が好きだった”んだ。
『久々に光志に会えると思ったら嬉しくてさーつい電話しちゃったんだよね。』
「そりゃどうも…」
言われているセリフは嬉しい。
かなり、スッゲー…どんな表現もチープになっちまうくらい。
だがそれは“昔の親友・光志”への明佳の気持ち。
俺は…
そう思ってくれている明佳を夢の中で、妄想の中で、何度も犯した。
何度も、何度も。
嫌だと泣き叫ぶ明佳を押さえ付けて無理矢理体を捩じ込み、細い身体を何度も何度も突き上げた。
そんな自分が嫌で…いつか本当にそうしてしまいそうな自分が怖くて俺は明佳から離れたんだ。
それを…今更。
『光志、俺に黙ってゼミ変えたりバイト変えたり彼女作ったりだったからさー…なんか淋しくてさ…』
「そうだったか?」
『そうだよ!』
それはある意味お前を俺から守るための決心だったんだから仕方ない。
…とも言えず。
『だから加藤の結婚式では離れないからな!』
「…あのなぁ。」
深い深い溜め息を一つ。
コッチの気持ちも思いも知らずに明佳は楽しそうにしゃべり続ける。
その軽やかな声を聞きながら俺は…いまだ冷めやらずな自分自身に飽きれてしまった。
END?
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