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prologue
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「一緒に暮らせばいいんじゃん?俺ら。」
何でもない関係だった。あの日、を境にぐっと距離感が縮まったことはどこからどうみても明白だった。
「……そうしてどうなるんだよ」
「分かんない。けど、多分俺らはそういう距離にいた方が合ってると思うんだよね」
言っている意味が分からなかった。あの日、同じ学食を食べなかったら、親友についていかなければ、「友達が出来たからお前に会わせたい」なんて、誘いに乗らなければ。
「….そういう距離に、って。なんだよ、お前と俺はどういう距離にいれば良いと思ってんだよ」
「小難しいことは考えんなよ。な、大学も近いし、どうせお前一人暮らしとか考えてたんだろ?」
「考えてたけど、お前に関係ないだろ」
突き放す言葉を一つぶつけてみたのに、相手はニヤリと笑うばかり。それだけで終わらず、
「俺もお前も似た者同士だし。分かり合えるやつがこれから先見つかるかなんて分かんないじゃん」
「なんだよ…お前、俺のことまさか」
言いたくないけど言ってしまわなければ終わらなさそうな論争に終止符を打とうと続けた言葉は、ケラケラと軽く笑い飛ばされ、そして首を横に振られた。
「俺はお前を“唯一”と思ってないし、お前だって俺のこと、“唯一”だなんて思っちゃいないだろ?」
「だからそれでいい。唯一じゃなくても、俺はお前が特別だよ。……俺がいつまで続けるか分からないこの人生で、一生を賭けて墓場に持って行こうとした事に気付いたやつだもん」
「そんなの、お前だって、」
「そう、だから。運命共同体?ってやつ?あ、違うな。うん、なんか違う」
「お前も俺も、お互いが唯一じゃない。けど、特別なだけ」
な、と続けざまに差し出されたのは、今年の春から行こうとしている大学と同じ最寄駅としているアパートのチラシだった。
あの日、同じ学食を食べなかったら、
親友についていかなければ、「友達が出来たからお前に会わせたい」なんて、誘いに乗らなければ。
あの日、向かいに座ったお前が、隣の親友を見つめる瞳があんなに柔らかくなければ。
「気付かなきゃ良かったんだ、…ぜんぶ」
柔らかく笑う表情が、まさに自分とダブってしまったせいで、全てに気付いてしまわなければ、
俺らはきっと、唯一でも特別でもない、ただの友人の友人でいられたのに。
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