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⑤
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唇を舌でこじ開けて、浅海の舌を絡めとる。
逃げようともしっかりと瀬世が浅海を覆っている。
瀬世は浅海の後頭部を押さえた。どんどんキスが深くなっていく。
駄目だ、まずい……ッ――
このままだと流されて、瀬世に身を預けてしまう。
「……先生、こっち向いて」
唇を離すと、瀬世が浅海の頬に手を添えて自身の方へ向かせた。
「嫌だっ……見たくない。……見るな!」
浅海の顔は真っ赤に上気していた。吐息は荒く熱を持っている。
「……先生、シよ?」
その上気した顔に興奮したのか、瀬世はそう言って浅海のシャツのボタンに手をかけた。
「あっ……! や、やめろ! 嫌だ、嫌……ッ!」
そう叫ぶと、教室に甲高い乾いた音が響いた。
はっとして瀬世を見ると、彼は頬を押さえて床を呆然と見つめていた。
浅海は気づいた。
――瀬世を叩いてしまったのだ。
「あ……ごめん、なさい」
呟いた声は震えていた。
浅海は瀬世の顔を除きこんだ。
「瀬世……? 大丈夫、か?」
「――……先生さぁ、自分が何したかわかってんの?」
冷たい声色で訊かれて、背中にぞわりと何かが走る。
「え……?」
瀬世は浅海の疑問符の浮かんだ顔を冷めた瞳で見つめると、その頬をわし掴んだ。
「……だから、自分が何をしたのかわかってんのかって訊いてるんだよ」
「あ……いや……瀬世の頬っぺた、叩いちゃって……」
すると、瀬世はふっと笑った。
「……へぇ、『頬っぺた叩いちゃって』ねぇ。ホント……――可愛いね、先生」
浅海は顔をぼっと赤くさせる。
四十三にもなって可愛いと言われるなんて思ってもみなかった。
「でも――」
急にぐいっと瀬世の方を向かせられる。
「……駄目だよね、叩いちゃ。オレ生徒だよ? 大切に大切しなきゃいけない生徒だよ? それに、オレはそこらの生徒とは訳が違うのも……わかってるよね?」
瀬世が何を言いたいのかは察しがついた。
教師にとってこれほどストレスになることはない、あの問題である。
「……良いの? このこと、バラしちゃうよ」
――教師による生徒への体罰問題。
教師になり二十年近くになるが、一度もこういった問題を起こしたことはなかった。過度なスキンシップもなければ、執拗に生徒に注意することもない。何も、そう何もなかった。何も――
……あれは、例外に入るのだろうか。
あれは自分の教師人生において一番の汚点だった。例外なんかじゃない。
自分はとっくに罪を犯している。ただ、『彼』が何もしなかっただけ。
彼が浅海を自分の世界から『消滅』させるために、あえて触れなかっただけ。
彼にとって自分は忘れたい存在に成り下がったのだ。
もう、あんな間違いを犯すまいと思っていたのに――
浅海は教師で、妻子もいて、今は教師人生を絶たれそうな状況にいる。
そんな浅海が今しなければならないことなんて、一つしかない。
浅海は瀬世の手を払った。
「――わかった。わかったから、言わないでくれ。……お前の、好きにしろ」
瀬世はにんまり笑うと、そっと浅海の頬に触れた。
その瞳は熱情で揺れていた。欲望で潤んでいた。
たまらなく、欲情した。
「――……先生、オレに溺れろ」
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