アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑦ (R18)
-
「あ……――ああああッ!」
痛い。痛い。痛いよ。
なんだ、どうして、何があった――
不安になって見上げると、佐和田が再び拳を振り上げているのが映った。そして、その刹那、また耐え難い痛みを感じた。
みしみしと頬の骨が軋む音がする。佐和田の綺麗な手の固い骨が頬に食い込んでいく。
あぁ――殴られたのか。
「がぁっ、ああああああああああああああああッ!」
浅海の喘ぎに佐和田はにんまりと笑みを浮かべながらも悲しそうな瞳で眉を下げて浅海を見つめた。その双眸からはまだ綺麗な涙が伝っている。
「先生……名前、呼んで」
佐和田は浅海の頬に手を添え、顔を近づけた。
甘い接吻でもしようとしたに違いない、浅海はふいっと顔を背けた。
すると、頭上でギリギリと歯軋りする耳障りな音がした。視界の端でちらりと伺うと、涙を流しながら歯を食いしばっている鬼の形相がそこにはあった。
「なんで……オレじゃ駄目なの」
「え……?」
「なんでオレじゃ駄目なの! なんで分かってくれないの! なんで受け入れてくれないの! なんで……――アイツが良いの……」
嗚咽が混ざりながらの必死の叫びだった。それでも綺麗に泣いていた。もっと涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっても良いのに。
浅海は痛む頬を押さえ、痛みに耐えながら、佐和田をじっと見つめた。それは行為の相手への目ではなく、れっきとした教師としての厳格な目だった。
「好きだからだ」
口から出た言葉は実は瀬世にもちゃんと言ったことがないけれど、思いの外すんなりと吐けた。
「オレが好きなのは瀬世だから……お前じゃないから……」
本当は、初めはアイツにちゃんと言ってやりたかった――
瀬世が好きだ。好きになってもらって嬉しかった。いつも心配してくれて嬉しかった。いつも家に来てくれて嬉しかった。相生するって、約束してくれて嬉しかった。
優しい愛を教えてくれて嬉しかった。
甘い恋をすることを教えてくれて嬉しかった。
気持ちがいいセックスを教えてくれて嬉しかった。
『あの日』の傷ついた心をアイツなりの精一杯の愛で癒してくれて嬉しかった。
分かってる。確実に自分の方が先にどんどん老いていくことくらい。
セックスも出来なくなって、一緒にどこにも行けなくなって、いつか瀬世の横にも立てなくなってしまう。
それでも、一緒に生きたいと思えたんだ。ずっと側に添い続けたいと思ったんだ。
いつまでもあの腕に抱かれていたい。あわよくば死ぬ時もあの腕に抱かれて、あの胸の中で死にたい。
だから――
「お前を選ぶのは……無理だ」
静寂が部屋を包む。聞こえるのは、自分の呼吸する音だけ。
佐和田はまるで死んでいるのではないかと疑ってしまうほど、呼吸の音さえ立てず、ただ静かに光を失った虚ろな目で浅海を見つめていた。
そして、ぽつりと呟いた。
「ふざけんじゃねぇよ……」
普段の数倍の低いトーンの声で絞り出したように放たれた言葉は、浅海の耳に怖いくらいすんなりと入り込んできた。
「ははっ……なんだよ、せっかく……せっかく……」
佐和田はぶつぶつ呟きながらケラケラと笑う。そして、
「クソが」
と、そう吐き捨てた。
――眼前に大きく振りかぶった拳が見えた。
骨が悲鳴を上げる音を聞いた。
自分の痛みに喘ぐ声が聞こえた。
佐和田の開いた瞳孔がちらりと見えた。また見えた。また見えた。何度も見えた。視界の右端に、左端に、また右端に。何度も何度も見えた。
何度も何度も――ただただ殴られた。
そして、出た言葉は――
「お願い……っ、もう、殴らないで……佐和田ぁ……許して、許してぇ……」
名前だけは絶対言わなかった。けれど、佐和田は嬉しそうににんまりと笑った。それでも、目には狂気が残っていた。
「先生……浅海先生……いっぱい愛して、いっぱい注いで――絶対孕ませてあげる」
佐和田はそう言って、浅海の腰をがっしり掴んで再び激しい打ち付けを始めた。
浅海の意識はとっくになかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
46 / 57