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咲が帰ってきて二時間後に瀬世が家にやってきた。玄関まで行くと瀬世は浅海を視認した瞬間、浅海の様子を見て笑みを浮かべていた。どこか泣きそうに見えたのは見間違いだ、なんて思いたくはない。一日中浅海のことで頭がいっぱいだったらしい、瀬世の浅海を見つめる表情はあまりに『好き』であふれていた。
浅海のことが大切で大切でたまらないって顔をしている。愛してるって顔に書いてあるのが見えるくらいに大きな思いがあるのが伝わってくる。嬉しい、好きだ。この男が好きだ。――でも。
愛されてるのがわかってても、俺は自分が醜くて惨めに思えて仕方ないんだよ――
鏡を見てようやく気が付いた。自分は瀬世とは不釣り合いなんだって。傷痕の下に潜む老いは浅海の傷心を更に深く抉った。若々しくて煌めいている瀬世の隣に立つ自分は周りからどう見える。父親でもおかしくない年齢差なんだ、誰が恋人だって認識するのだろう。
わかってる、瀬世はそんなこと気にしないことぐらい。世間体など一番眼中にない男だ。けれど……誰よりも真っ直ぐで一途な男だ。
――だから好きになった。
「……先生?」
瀬世は浅海の顎をくいっと持ち上げてこちらを向かせた。すると、瀬世は浅海を訝しげに見つめた。
「……なんて顔してんの、先生」
浅海の顔は今にも泣きそうなのを必死に我慢しているような、苦しそうな、またどこか悔しそうでもあった。
そんな表情を見るとたまらなくなってしまって、瀬世は浅海を抱き寄せようとした。しかし、それより先に浅海が口を開いた。
「オレの顔……酷いだろ」
浅海は苦い微笑を浮かべた。瀬世にはそれでも美しく見えた。初めて見た日から変わらない美しくて尊いものを感じた。好きだ、好き。愛してる。
「オレ――ずっとお前の隣を歩くのは無理だ」
一瞬、時が止まったように感じた。瀬世は何を言っているのかわからないといった様子でただ浅海を凝視していた。心苦しいと感じながらも浅海は続けた。
「生徒と教師っていう関係がまずいからってわけじゃない。一回り以上も歳が離れてるんだ、確実にオレの方が先に死んでしまう。お前は相生してくれるって言ったけど、オレが死んだらいったいお前は何年一人でいるつもりなんだ? ずっと孤独のまま死んでいくのか? 寂しくないのかよ……っ?」
「……先生が死んでも、オレは誰も愛さない。ずっと先生だけを想って生きていく。そう、言ったはずだけど」
わかってる。忘れるわけないじゃないか、今まで生きてきた中で一番嬉しかった言葉なんだから。わかってるんだよ……! ――
浅海は拳をぎゅっと握りしめた。それは怒りでもなんでもない、力んでいないと今にも泣いてしまいそうだったから。
「オレは……オレは……っ! ――お前の横にいるのが、どうしようもないくらいに惨めに思えそうで怖いんだよ!」
「……なんで」
「お前は若いし格好いい。優しいし、性格ちょっと歪んでるけどオレのこと大事にしてくれる。声も好きだ、心地良い。その体躯も好きだ、ぎゅってされるとたまらなくなる。あと、あと……――」
気づくと、せっかく我慢した涙が溢れてきてしまっていた。
口に出すと余計に感じさせられてしまった、瀬世が好きで好きでしょうがないことに。どうしようもないくらい大好きだということに。
――本当は、今さら離れることなんて出来ないことに。
「好きだ……、大好きなんだ……。大好きだから、お前の重荷になりたくないんだ。完璧なお前にオレは何をあげられる? 後何年一緒に居ることができる? 本当ならすぐにでも別れたい、お前は新しい恋人を作るべきだと思った。でも……」
瀬世は浅海をぎゅっと抱き締めた。大きな腕に包み込まれる感覚はたまらなく浅海を安心させた。無意識に歓喜で震えてしまう。
「……オレのことが好きならずっと側にいろよ。ずっとオレのことだけ見てろよ。周りなんか気にせずにオレと生きればいい。歳なんか関係ない、セックスも出来なくなってもいい。例え先生が死んだとしても先生はずっと特別だ。オレは――先生が死んでもずっとずっと好きだ!」
瀬世がこんなに大きな声を出すのは初めてだと思った。それが自分の為だと思うと胸がいっぱいになる。嬉しくてたまらなくなる。もう、離れるにはあまりにも遅すぎた。
浅海は瀬世を抱き返した。きゅっと瀬世のシャツを掴む。
「瀬世……こんなぼろぼろの顔してても、オレのこと抱ける?」
浅海はボソッと呟いたが、瀬世は浅海の頭に優しくキスを落とした。
「……いくらでも抱いてあげる」
そんなこと瀬世には愚問であった。細かいことを考えていたのは浅海だけだった。それは恥ずかしいことだったけれど、ようやくちゃんと言える。
「瀬世、卒業したら指輪買おうか」
「……え、本当に?」
浅海はクスリと笑ってふわりとした微笑で「うん」と言った。
「……くそ、先生が自立した社会人って感じで腹立つ」
「どういう意味だ……」
なんなら、結婚式も挙げてしまおうか。お金かかるなぁ――
すると、リビングから咲が出てきた。
「お父さんたち……玄関だよ」
まさか聞かれていたのではないだろうか……――
あまりの恥ずかしさに人生最大に悶え呻きまくる浅海であった。
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