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新学期(18)
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そっと扉を開くと、部屋は静かなままだった。
ほっと息を吐いてキッチンに行き歯磨き粉を差し替える。
ゴミ箱に古い方を投げ入れると、カコンと音を立て部屋に響いた。
「まずい……。」
響いた音は案外大きくて、繊細な理人の眠りを妨げてしまったのではないかと焦る。
寝室のドアを開けると、布団にくるまりクマを抱きしめ眠る理人がいた。
時計を確認すると、夕食の時間まであと2時間ある。
扉を閉めた聖夜はリビングに戻り、ソファに座ってテレビのリモコンのスイッチを押した。
丁度午後のドラマが急展開を迎える時間帯らしく、場面が次々に切り替わり今見始めた聖夜にはさっぱり分からなかった。
「はぁ……。」
ため息を吐いてテレビを眺める。
『だから……私は、あの人のために、少しの間離れる決意をしたの。……彼なら、きっと分かってくれるって……それなのに……。』
『サクラさん、彼は最後まであなたを想っていました。』
『え?』
『彼はこれを、最期まで身に着けていました。』
『……なんで……これ……。』
受け取ったジッパーバッグに入っている何かを抱きしめ泣き崩れる女優。
これは最近人気の彼女がまだ若い頃の作品で、刑事役の俳優は去年亡くなった。
このドラマはよく再放送されているシリーズ物で、ありがちな設定なのにストーリーが深いためファンが多い。
確かキャストが変わって新シリーズが始まると、アリスに聞いた気がする。
彼女は大の刑事ドラマファンだったりする。
今泣いているこの女優の名前も教えてもらったはずなのに、何だったか思い出せない。
聖夜は、理人以外の人間に興味がない。
彼さえ居てくれれば、聖夜は生きていける。
彼のために、全てを捧げることに喜び、幸福を感じる。
でも、このドラマのように居なくなってしまったら?
考えるだけでも恐ろしい。
不安になってもう一度寝室のドアを開ける。
さっきと変わらない姿勢で眠る理人。
近づいてベッドサイドに腰掛け頭を撫でると、理人がんぅと息を吐いた。
その姿を見て自然に出る微笑みが、実は理人の前でしか出ないことを聖夜は知らない。
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