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傷跡(2)
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「聖夜さ、最近よく思いつめた顔してるよね。」
まず声を出せたのは、意外にも鉄平だった。
「鉄平、大丈夫か?」
香が心配そうに顔を覗き込むと、鉄平はぎこちないながらもはにかんで見せる。
「うん、ごめん。まだ、みんなに話すのは出来ないけど、必ず、みんなに話して、克服するから!だから、待ってて。」
「おう、俺たちまだ若ぇからな。……でも、ボケる前にしてくれよ?」
自信なさげな目で、待ってて欲しいと言われて、無理だなんてこと言うものはここにはいない。潤がニカッと笑うのを、鉄平は少し複雑な気持ちで受け止める。先程の聖夜が気になるのだ。
「あははは!お前はボケるのが早そうだな。」
「んだと?香、お前その言葉覚えておけよ?」
「フッ……私はこの中の誰よりも、健康に生きる自信がある。潤、貴様に劣る私ではない。」
「なっ!?言ったな!」
「確かに、香さんは長生きしそうです。」
「アリスまで……。」
鉄平は長生きと聞いて、1番危ういのは、やはり理人だと思い不安になった。本当に、大丈夫だろうか。
「長生き……。」
「大丈夫だ。〝姫〟はおらだが守ってければいいべぁ。(姫は俺たちが守ってやればいいんだ。)」
「そうだな。」
団結したばかりで何もわからないけど、わからないからこそ生まれる不安は大きくて、大切な人を失う辛さを痛いほど知っている鉄平には、慰めにならなかった。膝の上で拳を握り、俯く。それに気がついて今は、そっとしておくのがいいと思った桜庭は、あからさまな話題転換を行った。
「潤さん、わたくし達の団名は鈴蘭ですが、他の団にもいろいろな名前が付いているのですか?」
「ああ。そうか、お前来たばっかだから基礎習ってねーのな。」
「すみません。」
「いや、忘れてた俺が悪い。香。」
「私が説明するのか。」
気を抜いていたら、魂を取られるのではないかと思うほど恐ろしい顔で、ぎらりと睨み付けた香に怯むことなく、潤は爽やかな笑顔で言い切った。
「よろしく。」
「はぁ……団名は、その楽師団の中で最も力の強い者の〝言霊〟によって、付けられる神力が宿ったものだ。もちろん、滅多な名は付けられん。それぞれの楽師団の特徴をよく現すからな。神がその団に相応しいと判断された時、証が与えられる。うちの場合は、〝鈴蘭〟の痣だ。だが理人がなぜこの名にしたのかは分からない。此奴はいつも小難しいことで頭がいっぱいだからな。それから、なかなか団名が決まらない所もある。そういう場合は、楽師バンクで預かりの楽師団になる。決まるまで番号が付けられてな、それで呼ばれて任務に着く。ま、〝名無しの団〟なんてそうそう依頼は来ない。そういう楽師団は大抵自分たちの力を理解して居らず、勘違い野郎が揃った哀れな団だ。」
「香様、言い過ぎですわ。」
「悪い……。えー、ちなみに、この間お会いした朱雀様の楽師団は不死蝶だ。海野の所属している理人のもう1人の叔父、俊一郎様の団は案山子。理人の兄様、煌斗様の団は?知っているか。」
「スメラギ……ですか。」
「そう、皇。お前の兄が仕えているはずだ。相応しいだろ?今、最も勢いのある、事実上日本の楽師団の頂点に立つとされる団の名だ。そして、お父様の俊樹様の団は、華嶽(かがく)。」
「凄いですね……。どの楽師団の名も聞き覚えのあるものばかりです。」
「そう、朝日奈は、楽師の名家だからね。みんな知ってるよ。始業式で餓鬼に襲われた時、リョーちゃんを迎えに行ったリトの言うこと、聞けって周りに言われなかった?」
「……確かに、言われました。」
「理人のお爺様の神楽様が、神の声を直接聞くことが出来ると、聞いたことがあるか?」
「あります。兄が『神の声を聞くことの出来る、神楽様をお爺様に持つ、煌斗様に仕えることになった。』と、自慢しておりましたから。」
忘れもしませんよ、と呟いた桜庭が実はものすごく根に持ち、笑顔の裏で毒ずく性格であると、最近分かり始めている。
「朝日奈家は、神のように崇拝されている反面、どうにか失脚させようと企む輩もいる。」
香が真剣な顔でそういうと、今まで黙って聞いていた潤が、先程の笑顔とは打って変わって、真面目にいつもより少し低い声を出した。
「いいか、俺達はもうただの楽師団見習いじゃない。名を持ち、主君のある楽師団見習いだ。そこを忘れるな。」
「「「はい!」」」
眠る理人はまだ知らない。自分の選んだ者達が、後世に語り継がれる程の精鋭揃いであることを。
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