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夏の始まり(2)
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牧野綾斗の見舞いには、明後日に控えた中間考査期間が終わってから行くこととなった。今は理人と共に誰が行くか、という話し合いが行われている。
「聖夜は、絶対だろ?」
潤の言葉に、サロンの皆が頷く。理人に何かあった時、1番に対応でいるのは聖夜だけだから、彼が着いていくのは直ぐに決定した。そして、サロンは静まり返る。
「……さて、行きたいやつ…」
潤がそう言い出し、次の言葉が発せられた瞬間、一斉に手が挙げられた。
「…Raise your hand!」
「「「yeah!」」」
「やはりか……。」
潤の掛け声で手を挙げたのは、理人と聖夜以外の全員。涼介や怜までビシッと手を挙げている。その光景を聖夜は眉根を下げて見守る。変にノリのいいメンバーが揃っているため、なんとなく想像はしていたけれど、こんなコントのようなものを突然なんの前触れも無くされると、理人は思わずにやけてしまう。と、自分では思っているが実際は全く表情は変わらない……。
「誰でもいいけど……鉄平と吹雪はだめだ。」
「えー……まぁ、そうだよね。僕が行くなら、香も来なきゃだもんね。ユキ、今回は諦めよう。」
わざとらしく鉄平がそう言うと、吹雪も大袈裟に残念な顔を作って頷く。
「んだな。」
「だとすると、私と潤も除外だな。」
香が真面目に仕切り直すと、潤も頷いた。
「そうだな。報告はしっかりしてもらうとして……戦力にならねぇなら意味ねぇかんな……誰にすっかな。」
「わたくしは、流生が適任かと思いますわ。」
「そうですね。俺もそう思います。」
アリスと涼介が流生を推すと、怜も理人の目を見てコクンと頷いた。
「え、俺っすか?」
指名された流生はキョトンとしている。
「そうだな。流生がいいか。」
「え?ほんとに?」
また、満場一致で決まったことに、流生は首を傾げた。なぜこの人達は、こんなにも自分に頼ってくれるのか。それが分からない。
「なんだ、行きたくないのか?」
流生が少し不満そうな顔をしていたのか、香が彼の様子をうかがうと、流生はしどろもどろになった。
「いえ、ただ、その……。」
「どうした。」
理人も不思議そうにする。だから流生は前回人から情報を仕入れる役を任された時には聞けなかったことを、聞いてみることにした。
「なんで俺なんですか?」
「「「はぁ?」」」
各々が驚いた顔をして流生を見ている。流生はその反応にも首を傾げ、潤が呆れたように言った。
「お前が牧野綾斗の話持ってきたんだろーが。」
「そうですけど……それだけですよ?」
「あらまぁ……。」
「流生くん……。」
流生が自分にどんな才能があるのか、あまり分かっていないとは思っていたが、流石にここまでだとは思わなかった。なにせ、女子から話を聞く時はあえて〝そう〟しているのだと、いつか本人が言っていたのだから、自覚が多少なりともあるのだと、考えるのが普通だ。
「流生、俺は牧野綾斗とは面識が無い上に、今回の件に関して、しゃしゃり出ていい存在でも無い。けれど、俺は牧野の記憶を〝覗かなければいけない〟んだ。」
覗かなければいけない、ということは、理人の中の神器牢が何かを訴えているということ。それを瞬時に理解したのは、聖夜と鉄平、香だけだった。
「はい。」
「だから、お前の話術で牧野に不信感を抱かせず、俺と接触させて欲しい。」
「俺、そんなことでき……」
「できるよ!流生は、無意識かも知れないけど、誰よりもその場の空気読んで、言葉を発してるじゃん!つべこべ言わずにリト達に着いてって、その場の空気読めば良いんだよ!」
「そうだ。着いてきて、必要だと思った言葉を並べればいい。いいな?」
流生は、混乱していた。人間がたまに呼吸の仕方が分からなくなるように、今までどんな風に話していたのか、意識をした途端に分からなくなってしまった。そして、理人に求められているのがその〝話術〟なら、変なことを言って失敗なんて出来ない。そう思ったら、余計に焦ってなんと返事をしたらいいのか、言葉が出て来なくなった。
「はい。」
さっぱりした、返事しか返せない……。
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