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嘘の鏡合わせ(3)
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「...あの...。」
牧野綾斗は、非常に気まずい空気を何とかすべく、全校、いや、国民の憧れと言っても過言では無いヤタ様に、勇気を振り絞って話しかけてみた。
「なに。」
すると案外普通に返事が帰ってきて、拍子抜けする。無視されるか、なにか小言のひとつでも返ってくるのではと身構えていたからだ。しかし声をかけた手前、呼んでみただけですなんて言える訳もなく、改めて見舞いのお礼を言うことにした。
「お見舞い、来てくださって、ありがとうございます。」
目を見てそう伝えると、彼は小さくコクンと頷いた。その姿がなんだかとても可愛らしく見えて、気持ちに余裕が出来たのか、気がついたらどうでもいいような話しをしてしまっていた。
「あの、俺、禊法って初めて見たんです。」
「...どうだった?」
けれども彼は、禊法というものがあるということしか知らない牧野に、感想を求めてきた。彼の夕日に染まった銀髪が首を傾げると同時に、さらりと揺れる。
「...綺麗。」
つい口から零れたそれを誤魔化すように、牧野は俯いて必死に口を動かす。
「あっ!き、綺麗でした!初めて見たのが、朝日奈家、しかもヤタ様の禊法だなんて、本当に嬉しかったです!俺、1度でいいから、こうして、貴方と話してみたかったんです!それが叶うなんて!...あ、すみません。」
また余計なことを口走り、今度こそ誤魔化せなくて顔を手で覆うと、ヤタ様が牧野に近づく気配を感じた。
「...で、話してどう思った?俺のこと。」
思ったよりも近くに声が聞こえ、驚いて顔をあげると、ヤタ様はベッドに手を着いて牧野の顔を覗き込んでいた。
「え...。」
「いいよ、言ってみな。1個だけ、聞いてあげる。」
それはまるで、牧野の欲望を見透かしているような、夢のような言葉だった。
「ふ...。」
「ふ?」
「振れて、みたい、です。」
そう言った途端、するりと手を握られ、そこから這うように指が腕をなぞってきた。白い手がそのまま肩まで這い上がって、鎖骨をなぞり、顎先がそっと掴まれる。顔が近くて、思わず目を瞑ると、コンと優しく暖かい何かが額に触れた。心臓がバクバクと音を立てて、苦しい。ぎゅっと目に力を入れてから開くと、もうヤタ様は離れていた。
一瞬でも、彼がこの自分だけを見て、話し、振れていたのだと実感した頃には、もう彼の姿はなかった。
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