アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-24-
-
スイッチを入れられたように不意に目覚める。時計の針はもう9時を回っている。朝の光が、針で刺すように目の奥を痛めた。
重く感じる体を無理やり起こし、ソファから降りる。今日もバイトに行かなければいけないと、ため息を吐きながらも準備に取り掛かった。
あの日、狐塚さんにキスをされたり抱きしめられたり頭を撫でられたりしてから、もう何週間も経った。季節は例年より早めの梅雨に入ろうとしている。どうか今年は空梅雨であってほしいと願わずにはいられない。
狐塚さんと顔を合わせても話は必要最低限にとどめて、バイトの終了時間になったら逃げるようにさっさと帰る。あの日を最後に狐塚さんの家である2階には足を絶対に踏み入れないと決めた。
初めて感じる人の体温の熱に、吐息に、嫌だとも気持ち悪いとも思えなかった自分が怖かった。心の奥底でもっと触れてほしい、もっと名前を呼んでほしいと願う自分には固く強く蓋を閉めた。もう二度と出てこないように。
一瞬でも、あの人に触られてるかのような、あの人が目の前にいるかのような錯覚を起こしてしまった自分を殴りたい。そんなこと、絶対にありえないんだから。
洗面台で顔を洗い、鏡の中に映る自分の顔を眺める。もう見慣れたはずの鏡の中の自分に意味もなく笑いかけてみる。あぁ、顔の作りだけは綺麗だね君。ただもう少し食べたら肉がつく体であってほしかった。
もう少し鏡と対面したい気持ちもあったが、それを振り切って俺は毎週土曜日に目覚めて一番最初にやっていることを、今日も変わらずにする。いつもの場所からそれを取り出し、ソファに座って最新のものに目を通す。それだけで、心が救われるような温かい気持ちになった。
想いが溢れそうになって、泣きそうになるけれど、それでもやっぱりこの時間が俺は一番好きだ。もっとこの時間を感じていたいと思うのに、時間が経てば経つほど愛しさと切なさのバランスが切なさに傾いていく。
切なさの上に悲しみや苦しみも乗っかり始めようとしたところで、それを元の場所に戻した。これと再会するのは今日の夜だ。
土曜日の夜は泊まれと言われた狐塚さんの言葉はまだ一度も現実になってない。これからもするつもりはない。これ以上あの人に、俺の心に近付かれたら今度こそ俺は甘えてしまうだろう。それは、あの人に対する裏切り行為になる。
いや、裏切りにもならないのかもしれない。ただ俺がそう思いたいだけなのかもしれない。あの人は許すかもしれない。でも自分が自分を許せないから。心の中、ごめんなさいと呟いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 138