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大切な人を作ってはいけない。ただただ、自分と相手が辛くなるだけだから。俺は自分のやるべきことをその時が来るまでやっていればいいんだ。それこそが、俺の存在価値。
巻き込んではいけない。仏頂面であまり笑わないけど、とっても美味しい料理を作るイタリアンシェフで、不器用な優しさを持った男前の狐塚さんを巻き込んではいけない。あぁ、やっぱりバイトを始めたのは間違いだったんだ。
「凪、俺を好きになれ」
「嫌で~す」
「俺を好きになりそうだったから、あの日から俺を避けてたんだろ?」
「…違う」
「俺にキスされるの、嫌じゃなかったんだろ?」
「…違う!」
「俺のものになれ」
「っ…」
俺の心の奥底を覗き込むような表情を向けられて、顔が水をかけられたようにキュッと引き締まる。もう無理だと思った。この人から逃げるのは。
「俺を好きになったこと、絶対後悔しますよ」
「後悔するかしないかは未来の俺が決めることだ」
「男なのに、いいんですか?」
「男とか女とか関係ない。俺が好きになったのは凪だ」
「本当に…俺と出会わなければよかったと思うかもしれません」
「お前は俺じゃねーだろ。お前の想像は無いに等しいと思え」
「…俺で、いいんですか?」
「お前がいい。凪、これからもっとお前のことを知って、お前にも俺を知ってほしい」
「……よろしく、お願いします」
「おう、今日からお前は俺のもんだ」
恋人に対しても俺様は変わらないんですね。満足そうに顔を綻ばせた狐塚さんに、不覚にも胸が高鳴ってしまった。俺様怖い。恐るべし。
本当は、この笑顔を傷付けたくない。でも返事をしてしまったからには、俺は必ずこの人を傷付ける。今から心の中でたくさん謝っておこう。ごめんなさい。
カウントダウンが始まった。報われない恋の、期限つきの恋の終わりに向けて。目に見えない時計の針が、ゆっくりと確実に、動き出した。
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