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よく晴れた夜空を覆い尽くすように、巨大な菊型の花火が炸裂した。手を伸ばせば届きそうなほどの近さだった。光の玉が一瞬のうちに視野いっぱいにまで広がってゆく。きらきらとした火の粉が今にも顔面へ降りかかってきそうだった。
横に目をやると、凪が瞳を大きく開けて空を見つめていた。花火が赤や緑へと色彩を変えるたびに、菊や滝が空一面に広がるたびに、凪の頬は様々な色に変化していった。
最後の1つが耳を聾する炸裂の音と一緒に、夢のように儚く、一瞬の花を開いて、空の中に消えていくのを見届けぬまま、凪の横顔を見つめる。先ほどまで様々な色に変化していた凪の頬には、涙の筋があった。
「…泣くほど、綺麗だったか」
「………」
俺の問いに、言葉なく頷いた凪はそっと視線を横にいる俺に向けた。透明な二粒の水滴が瞬きと一緒にはじき出される。花火よりも、凪の涙は美しいと思った。
そっと涙の伝う柔らかな頬を包み、唇をついばむ。俺の手に凪の手が重ねられ、その冷たさにドキッとした。思わず唇を離して、凪の頭を自分の胸に押し付ける。柔らかな髪に手を差し込み、力強く抱きしめた。抱きしめているのに、漠然とした不安は消えなかった。
「…狐塚さんと、見れて…よかった」
「何しんみりしてんだよ。まだまだ祭りはどこかでやってるし、また花火は上がる。ここで見る花火だって来年も再来年も、一緒に見ればいい」
「……っ」
声を詰まらせて俺の腕の中で泣く凪は、俺の言葉を肯定も否定もしなかった。出来なかったのかもしれない。俺があまりにも強く頭を固定していたから。心の中では頷いているよな、と自分で自分を納得させた。
「凪…」
「…遼哉さん」
「もう、我慢しなくてもいいか」
「最初からずっと、そう言ってます」
「怖くないか」
「怖いと思う暇もないくらい、夢中にさせて」
その言葉を合図に、凪の体を抱きかかえ、ベッドに2人分の体を沈めた。花火を見るために部屋の電気はついていない。唯一の光は、暗い空に銀紙でも張ったような明るい月の光だけだった。
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