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人々が足早に歩いていく。仕事を終えて帰路につく人々はみんな同じような歩き方をしている。そんな中で学生服を着ている僕の足取りは、すれ違う誰よりも軽快だった。
学校の最寄り駅に到着してホームで電車を待っていると、携帯がメールを受信したことを知らせる振動を起こした。画面には待ちわびた人、『剛平さん』の名前が記されていて、瞬時にメールを開く。
『よく頑張った。ご褒美、明日にでも行くか』
あ、明日!?そんな、心の準備が!人でごった返すホームの中で携帯を手に1人あたふたとする僕を、疲れた顔のサラリーマンが変な目で見る。痛くもかゆくもなかった。
少し迷った後、心の準備は今日の夜と明日の夕方までにはしっかりしようと決めて、明日の18時にお願いします!と返信をした。送信をボタンを押す指は少し震えていた。
『分かった。今日はいつも通りに』
数分を置かずに剛平さんから返信が来て、『いつも通り』という文面にすら頬がだらしなく緩む。この『いつも通り』と呼べるようになるほど、僕たちはあの時間を重ねてきたんだと思うと剛平さんとの距離が縮まったように感じる。
電車がホームに入ってくると、9月の夕方の熱気に混じって、タールや鉄がこすれる匂いが僕の顔にぶつかってきた。電車はブレーキの余韻を残して停車し、大きなため息をついたかと思うと扉を開いた。
人が数人降りていき、その倍の人間が電車へと乗り込む。もちろん僕もその中に混じっていた。滑るように電車は動き出す。僕はドアの片隅に立ち、電車に揺られながらゆっくりと思考を巡らせる。
明日、何の服を着ていこう。初めて見るプラネタリウムはどんなところなんだろう。ご飯は剛平さんと食べるなら、きっとどんなものでも美味しい。何時まで一緒にいられるのかな。
考えることは次から次へと湧き水のように出てきて、危うく自分の降りる駅を通り過ぎるところだった。浮かれすぎている自分の気を引き締めるように、両頬を軽く叩く。この痛みが、夢じゃないんだと実感出来た。
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