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初出勤
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あれから数日経っても同じ大学に通っているはずなのに、善さんとはすれ違うどころか姿も見ていなかった
連絡先を交換しておけば良かったと思ったが、今日がバイト初出勤なため今日こそと覚悟を決めた
こんなに気にしてる理由が自分でも分からないけれど、何故だがあの日から気になって仕方がないのだった
「爽太今日からバイト?」
「おう。だからもう行かないと」
そう声をかけてきたのは潤で、ニタニタと笑いながら近づいてくる
「良かったじゃん、やっと会えるね」
「…気持ち悪い顔すんなよ、近いし」
以前、軽い気持ちでこいつに善さんとご飯を一緒に食べたことを話したのが間違いだった
それから俺がなんとなく周りを見渡すと、まだ会えないね?と片方の口の端を持ち上げてニタニタと笑うのだ
「善さんとの話、待ってるからねー」
「はいはい」
適当にあしらって学校を後にする
なんだかいつもより早足になっている自分に気がついていつもの速度に戻す
…バイトなのに少し浮かれている自分が不思議だ
いや、浮かれている理由は自分でも薄々分かってはいる
けれどたった一度会っただけの人の事をこんなに気にかけるなんて信じられなかった
「あれ、爽太君?」
懐かしい、心地の良い声が聞こえて振り返る
「善さん…」
「うん、久し振りだね」
柔らかく微笑む善さんがいた
久し振りに会えたからなのか胸がじんわりと暖かくなって、善さんの元へ早足で歩く
「あの…これからバイトですか?」
シフトに入れているとは知らないけど、潤がだいたい入ってるって言ってたし
そう聞くと、善さんは驚いたように少しだけ目を丸くした
「…え?うん、そうだけど…何で知ってるの?」
そう聞かれてマズイ、と焦る
こんなんじゃまるでストーカーみたいじゃないか
「いや、俺のバイト先が駅近の喫茶店なんですけど友達からそこに超絶美人の超絶美形の人がいるって聞いてそれで善さんだと……って…いや、あの…そうじゃなくて……いや、そうなんだけどっ」
もう焦りすぎて何が何だか分からない
本人を前にしてるのに聞いたままの噂を口にする馬鹿が何処に居るんだよ
「ぷ…っ、あはは…っ。焦りすぎ。
爽太君は本当に可愛いね」
こんな背がでかい、可愛らしい顔立ちでもない俺に向かって可愛と言うのはこの人くらいじゃないか
それに耐えられない、と言うように肩を震わせながらクスクスと笑う善さんの方がよっぽど可愛らしい
「ごめん、聞き方が悪かったね。
知っててくれて嬉しかったから、つい聞いちゃった。ごめんごめん」
恥ずかしさと情けなさで顔に熱が集まる
そんな事も善さんはまるで自分のせいだと言うように、本当に申し訳なさそうに誤った
そして細い腕が顔の横を通り過ぎたと思ったら頭の上に置かれ、まるで子供をあやす様にぽんぽんとされた
「いや…俺が悪いですから謝らないでください。
…えっと…じゃあ一緒に行きませんか?」
「ありがとう。爽太君が同じバイト先にいるのは何だか心強いな」
俺よりも少し背の低い善さんは俺よりも少しだけ前を歩く
見えるのはつむじと、ふわふわ揺れる髪、華奢な背中
隣で歩いて欲しいだなんて思ってしまった
「爽太君、おいで」
そんな俺の気持ちも見透かしたようにゆるりと振り返って柔らかく微笑む
生暖かい春の風が頬を撫でた
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